育成3年→戦力外「夢が見つからない」 不安と葛藤に生きる22歳…到達した「祖母の唐揚げ屋」
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2021年から3年間オリックスに在籍した釣寿生の今…支える祖母の唐揚げ屋
新たに追うべき夢を見つけるため、祖母と鶏肉を揚げる日々を送る。2021年から3年間、オリックスに育成選手として在籍した釣寿生捕手は今、地元の兵庫・姫路市内で「唐揚げ専門店・えびす」を手伝っている。祖母が出店している唐揚げ屋であり「おばあちゃんが定年退職してから、新しい夢として始めたみたいです」と目を細める。
76歳の祖母が店を開いて3年になる。「今の生活は、唐揚げ屋さんに朝から手伝いに行きます。週3回ぐらいですかね。朝は9時から仕込みをして11時のオープンに備えていますね」。マスクを脱ぎ捨てた男の表情は、優しさが滲み出ている。
釣は京都国際から2020年育成ドラフト4位でオリックスに入団。新人年は2軍戦に10試合出場したが、プロ2年目の2022年は1試合のみ。3年目の2023年も4試合の出場にとどまり、同年オフに戦力外通告を受けた。
昨季は社会人野球のロキテクノ富山でプレーしたが、在籍1年で引退を決断した。小学2年生から続けてきた野球。捕手しか守ったことのなかった22歳がミットを置くことを決めた心境は「練習や試合の中で自分のレベルが限界に達したのがわかったんです。これから先、野球を続けても能力が伸びるのか不安になって辞めようと考えました」と明かす。
昨夏には心の中で引退を決めていたが、今後の将来については「全く何も考えていないです。夢が見つからないんです。今の自分、今の仕事に……。正直、焦りはあります」と切実な思いを吐露する。
「ずっと野球をプレーしてきたので『野球のない生活』ってどんな感じなのかなと思ってました。なるべく地元で働きたいです。姫路で野球をして育ったので、少しでも恩返しをしたいなと思います」
“就活中”の22歳…「なかなか好きなことを仕事にするのは難しいですよね」
新しい職場を探す期間として、昨年末から祖母の唐揚げ屋をサポートしている。「進路を考えている間は、唐揚げ屋を手伝っていこうかと決めました。次の夢を見つけるための準備期間です。人と話すことが好きなので、お客さんとのコンタクトがあるのは嬉しいですね。常連の方も来てくださるので」と笑顔を絶やさない。
「なんで唐揚げ屋なのかは、僕もわからないんですけど。(祖母が)ボケないようにですかね?(笑)。12月、1月は自主トレにも誘って頂けたりするので、選手のみんなと関われる機会があるならサポートしたいなと思って、シフトの調整しやすい唐揚げ屋を選びました」
今オフは同期入団で同学年のオリックス・来田涼斗外野手、かつての同僚である渡部遼人外野手と太田椋内野手の自主トレに参加。率先して動き、汗を流した。育成入団3年で受けた戦力外通告。前が見えない時期もあった。「なかなか好きなことを仕事にするのは難しいですよね」。久々に投げた白球に目を輝かせる22歳。懸命に歯を食いしばり、社会の荒波にも立ち向かう。
(真柴健 / Ken Mashiba)
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