積極的なSNS発信で広がる輪 東京・朋優学院の新挑戦…示す価値、届く“反響”

取材に応じた朋優学院・湯原貴博監督【写真:岡部直樹】
取材に応じた朋優学院・湯原貴博監督【写真:岡部直樹】

JCOM東京高校野球番組MCの豊嶋彬氏の連載第1回

 住宅地に囲まれた東京都品川区の朋優学院。この高校を訪れたのは、ある特別な理由からでした。私、豊嶋彬はフリーのアナウンサーとして、これまで約10年、夏の高校野球東西東京大会の番組MCとして大会を取材してきました。今回は高校の取材という新たな機会をいただきました。第1回は同校のSNSの効果についてレポートします。

 JR西大井駅や都営浅草線・中延駅が最寄りのこの学校は、都心の学校とあって野球部には十分な広さのグラウンドがありません。しかし、この学校を取材先に選んだ理由は、実はSNSのフォロワー数にありました。都内の高校野球部のインスタグラムアカウントで多くても1000人台のフォロワー数の中、朋優学院野球部は4000人以上を誇っていたのです。

 これは部活動の日常や試合の様子、選手たちの表情など、マネジャーたちが自由な発想で投稿を続けてきた結果です。保護者からは「普段の練習の様子がわかって安心する」という声が寄せられ、他校の野球部員からも「朋優学院の投稿はいつも楽しみ」と好評です。SNSを通じて野球部の魅力を自然な形で発信し続けていることが、多くのフォロワーを集める要因となっているようです。

 学校に到着すると、湯原貴博監督が出迎えてくれました。第一印象は、大柄な体格に丸刈り頭、ジャージ姿でバットを持っていた姿が昭和的な印象を受けましたが、実際にお話してみると非常に柔らかい方でした。

 湯原監督は国学院大学硬式野球部に入部したが2年で退部し、準硬式に移った経験を持ちます。今では「あの2年を取り戻すために指導者をやっている」と振り返ります。大学卒業後は化粧品の営業を経験し、その後、朋優学院野球部の立ち上げから現在まで20年以上、指導者として携わっています。

 現代の野球部指導について、湯原監督も変化を感じているといいます。以前は強い口調で指導することもあったそうですが、結婚して子供が生まれてから意識が変わってきたとのこと。現在は、選手たちには野球を始めた時の「楽しい」という気持ちを忘れずに卒業してほしいと考えています。目標設定については、「甲子園」を最高の大目標としながらも、現実的な段階的目標として、夏の大会ベスト8や春の大会でのシード権獲得なども掲げています。

公式戦を戦う朋優学院ナイン【写真提供:朋優学院硬式野球部】
公式戦を戦う朋優学院ナイン【写真提供:朋優学院硬式野球部】

夢に向かって対面するOBとの会話で感じる幸せ

 SNSの運用については、驚くべきことに監督自身はそれほど厳密な管理はしていないそうです。投稿の運用はマネジャーに任せており、マネジャーの視点を大切にしています。リスク管理も意識しつつ、「とりあえずやらせる」という方針で、マネジャーたちへの信頼関係を基に運営しています。また、YouTubeでは相澤邦亮部長が編集した監督のノック動画が10万回以上再生されるなど注目を集めており、これは新型コロナウイルスの影響で指導者向け講習会が開催できなくなったことがきっかけで制作されました。

 OBとの関係も大切にしており、夏の大会には多くのOBが応援に来てくれるそうです。ユニフォームを変更せずに維持しているのも、OBへの配慮からだといいます。現在では上は40歳になるOBたちとLINEグループを作り、野球大会やゴルフコンペなどで交流を続けています。

 私は夏の大会取材で出会った選手たちと、その後も時々再会する機会があります。先日も甲子園球場での取材中に「豊嶋さん、覚えていますか?」と声をかけられ、3年前に取材した選手が看護学校に進学し、夢に向かって頑張っていると報告してくれました。

 また、別の選手は「警察官になるための勉強をしています。その前に金髪を楽しんでるんです」と笑顔で近況を語ってくれました。中には「消防士になる夢を叶えました」と、制服姿で母校の試合を観に来ている卒業生もいました。たった一度の取材での出会いでもこれほど嬉しいものなのだから、20年以上指導してきた湯原監督が「OBは宝」と語る気持ちが、深く理解できます。

 SNSは高校野球に新しい可能性をもたらしています。朋優学院野球部の日々の投稿は、保護者や地域の方々に練習風景や試合の様子を伝えるだけでなく、卒業生たちにも母校の「今」を届けています。インスタグラムやYouTubeを通じて、現役の選手、保護者、そしてOBたちが緩やかにつながり、それが野球部の伝統と絆を一層、強固にしているのです。SNSという新しいツールが、高校野球の新たな魅力を作り出している好例といえるでしょう。女性マネジャーと部長の協力についてのテーマはまた次回、お届けします。

○豊嶋 彬(とよしまあきら)1983年7月16日生まれ。フリーアナウンサー、スポーツMC。2016年から高校野球の取材活動を始め、JCOMの「夏の高校野球東西東京大会ダイジェスト」のMCを務めている。高校野球への深い造詣と柔らかな語り口を踏まえた取材・実況が評価されている。スポーツMCとしての活動のほか、テレビ番組MCなど幅広く活動中。 Xのアカウントは@toyoshimaakira  インスタグラムは@toyoshimaakira

(豊嶋彬 / Akira Toyoshima)

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