田中広輔が苦悩した6年「経験したくない」 挫折が生んだ“変化”「まだ負けてない」

広島・田中広輔【写真:小池義弘】
広島・田中広輔【写真:小池義弘】

12年目を迎えた田中広輔が2軍キャンプで放った存在感

 まだ諦めてはいない――。連日、黙々と汗を流す姿を追ううちに「背番号2」の覚悟を感じた。2月中旬の宮崎・日南、広島の2軍キャンプに田中広輔内野手の姿があった。12年目で初の2軍キャンプスタートになったが、「いつ実戦に入ってもいいように準備はできています」と若手に負けない気概で“初めての時間”と向き合っていた。

 1年目から110試合出場で打率.292を残すと、2年目に遊撃のレギュラーを奪取。2016年からのリーグ3連覇は不動の1番打者として貢献した。「最後まで出て試合を完成させる。その楽しさを知った時間でした」と話すように、3連覇中はフルイニング出場を果たし、2017年には盗塁王と最高出塁率のタイトルを獲得した。

 順調だったプロ生活が暗転したのは2019年。極度の打撃不振に悩み、夏場には右膝手術で戦線離脱。打率.193で6年目のシーズンを終えた。2020年に112試合に出場し復調の兆しを見せるも、翌年以降は成績が低迷。昨季はシーズン大半を1軍で過ごすも打率.156に終わっていた。

 栄光を知った3年間から一転、挫折を味わった6年。ただ、田中にとって2024年シーズンは、プロとしての“在り方”を考え直す時間になった。「途中出場にずっともどかしさを感じていましたが、気持ちの整理ができるようになりました。控えとして準備をすることもプロでは大事な役割。昨年、色々な場面で起用されて、改めてその大切さが分かりました」。

良いときも悪いときも経験して芽生えた「必要とされている誇り」

 東海大相模、東海大、JR東日本と名門でレギュラーとして起用され、広島入団後も、すぐに遊撃のポジションを掴んだ。スタメンで出場し周囲を納得させる成績を残してきた野球人生だっただけに、代打や守備固めなど“単発の起用”に戸惑いを覚えていた。そのモヤモヤをようやく整理できた。

「必要とされることにもっと誇りを持っていいんじゃないかと。誰もが与えられる場所ではないので、与えられた役割を全うしていこうと思っています」

 ずっと理解はしていた。ただ輝かしい実績が、その役目を素直に受け入れることを拒んでいたのかもしれない。「本音を言うと今のような経験をしたくないと思うことはあります。ただ、プロで良いときも悪いときも経験するなかで、そういう“在り方”も大事だなと思うようになりました」。

 2軍キャンプを取材した数日間。田中がグラウンドに姿を現すと自然と視線が向いていた。シャープな打撃、堅実な守備、実績が醸し出す存在感。キレのある動きから開幕1軍を見据えているのがひしひしと伝わってきた。

「まだまだ負けていないと思っています。若い選手とどこが負けているの? と思うこともありますから」。ありきたりな表現ではなく、強い言葉を発した田中に以前とは違う雰囲気を感じた。栄光と挫折を経験し、円熟味を増した35歳が見せてくれる復活劇を、期待せずにはいられない。

(真田一平 / Ippei Sanada)

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