大渋滞で開始直前に到着、6四球でボロボロ 「そんな雰囲気じゃなかった」も…“初勝利”で偉業達成

元中日・野口茂樹氏、プロ初完封がノーヒットノーラン
元中日左腕の野口茂樹氏はプロ4年目の1996年8月11日の巨人戦(東京ドーム)で史上64人目のノーヒットノーランを達成した。6四球を出しながらの偉業。これがプロ初完封でもあった。もっとも試合前も、試合中も途中までは全く、それどころのムードではなかったという。「9回も先頭(打者)が落合(博満)さんじゃなく、松井(秀喜)からだったら、すごく意識したと思う」など、その舞台裏を明かした。
プロ4年目の野口氏は開幕前のオープン戦で四球を連発したことなどで、星野監督の逆鱗に触れ、その試合中、ベンチ横で立たされた。それでも踏ん張って開幕ローテ入りは果たしたが、シーズンではなかなか結果が出ず、5月に2軍落ちとなった。1軍に戻ってきたのは7月。ここから巻き返し始めた。復帰後、2試合目の先発となった7月12日の阪神戦(ナゴヤ球場)で、この年の1勝目をプロ初完投勝利でマークした。
「最後バタバタと点を取られましたけどね」。打線の援護を受け、9-1で迎えた9回に阪神の桧山進次郎外野手と新庄剛志外野手にホームランを打たれるなど、4点を失ったが、最後まで一人で投げ切った。続く7月18日の巨人戦(東京ドーム)は4回1/3、1失点。後半戦に入って最初の登板の7月30日の横浜戦(ナゴヤ球場)では1失点完投勝利でシーズン2勝目を挙げた。8月6日の広島戦(倉敷)は5回2失点。そして8・11巨人戦を迎えた。
敵地・東京ドームでの巨人3連戦の3戦目だった。10日の1戦目は先発・山本昌投手で2-4、11日の2戦目は先発・今中慎二投手で2-5。中日が誇る左腕2人で連敗し、3人目の左腕・野口氏の出番。「ミーティングでは負けられないって話になっていたんですが、球場に向かうバスが大渋滞にハマって着いたら(午後)4時過ぎでした。アップからすべて遅れてスタート。もうバタバタで僕も(先発の)緊張うんぬんではなく、何かざわざわして球場に入った感じでした」。
バッテリーを組んだのは矢野輝弘捕手だった。この頃の野口氏は制球力が大きな課題。「その試合もね、初回と3回と6回かな、2個ずつフォアボールを出した。(投手コーチの)小松(辰雄)さんが何回かマウンドに来たと思う。6個もフォアボールを出している時点でノーヒットノーランなんて誰も思っていなかったと思いますよ。そんな雰囲気じゃなかったんです。(6回まで)0-0でしたしね」。
頼れる兄貴分・大豊が連発、9回は中堅・大西が美技
7回表に中日・大豊泰昭内野手が先制29号2ラン。8回表にもアロンゾ・パウエル外野手の適時打と大豊の2打席連続の30号2ランで5-0。「これで絶対勝てると思いました。でもノーヒットノーランはできたらいいな、くらい。周りはざわついていたけど、僕はこれまで1度も巨人戦に勝ったことがなかったので、まず勝てるかどうかが大事だったんで……」というが、最後まで淡々と投げて偉業を成し遂げた。
9回裏、先頭打者の4番・落合の詰まった打球は中前に落ちそうだったが、中堅・大西崇之が前進して回転しながら好捕して1アウト。5番のシェーン・マック外野手は三ゴロで2アウト。最後は代打・岸川勝也外野手をスライダーで遊ゴロに打ち取った。133球でのフィニッシュだった。「先頭が落合さんだったんで、思い切り行こうと割り切れた。そこで大西さんがファインプレーしてくれたんで、やれるかなぁってなったんですよね」と野口氏は言う。
「あの回、もしも(同い年で3番打者の)松井から始まっていたらすごく意識したと思うんですよ。で、その次に落合さんだったらきつかったと思う。僕は外国人選手に苦手意識はなかったので、マックはそんなに怖いとは思っていなかったですしね」。もちろん、大豊の2発はありがたかった。「大豊さんは僕が投げる時は『打ってやる』といつも言ってくれたんです。マウンドにも(一塁から)よく来てくれて、あと1人の時も『やれよ』って……」。
東京遠征で赤坂プリンスホテルに泊まる時は、必ず昼食は大豊と一緒に中華料理を食べていたという。「僕が(前日に)勝っていたら食べ終わった後にホテルでケーキを2個くらいデザートで買ってくれたんですよ」。そんな優しい兄貴分である大豊が2本のアーチで大きく援護してくれた。「あの日の試合後、大豊さんは『俺が主役だろ、新聞の扱いも俺の方がデカいやろ』なんて言っていましたけどね」。頼りになる先輩がいたからこその偉業でもあった。
「ノーヒットノーランは一生消えないですからね。それはよかったなと思います」と野口氏は笑みを浮かべた。だが、まだまだこの頃は制球難で安定感に欠けていた。これがシーズン3勝目だったが、8月はその後、1勝もできなかった。「月間(MVP)を狙えるかなと思ったら2試合連続でKOを食らったんですよねぇ……」。リリーフで登板した8月31日の巨人戦(ナゴヤ球場)では落合に死球を与えて“騒動”まで起きることになる。
(山口真司 / Shinji Yamaguchi)
