投げた瞬間「あっ」 19勝MVP左腕が大一番で味わった屈辱、一生忘れない“魔の1球”

ダイエーとの日本シリーズ第1戦に登板した中日時代の野口茂樹氏【写真提供:産経新聞社】
ダイエーとの日本シリーズ第1戦に登板した中日時代の野口茂樹氏【写真提供:産経新聞社】

元中日・野口茂樹氏、1999年日本シリーズは2試合に先発して2敗

 元中日、巨人投手の野口茂樹氏は1999年に19勝を挙げて中日優勝に貢献し、リーグMVPに輝いた。だが、ダイエーに1勝4敗で終わった日本シリーズでは第1戦と第5戦に先発して、いずれも敗戦投手。悔しい結果だった。とりわけ10月23日の第1戦(福岡ドーム)で、0-0の6回に秋山幸二外野手に先制アーチを浴びたシーンは「今でも鮮明に覚えている」という。「あの1球だけは、たぶん一生忘れないと思う」と話した。

 ダイエーとの日本シリーズ第1戦に先発した野口氏は4回2死までパーフェクトに抑え、絶妙な投球を見せていた。5回に制球を乱し、3四球を与えてピンチを招いたが、踏ん張って点は許さない。そこまで1安打に封じていた。一方、ダイエー先発の工藤公康投手も6回まで3安打8奪三振。両左腕の投げ合い。そんな0-0の均衡が破れたのが6回裏だった。この回先頭のダイエーの1番打者・秋山がレフトスタンドに先制アーチを放った。

 その回に野口氏が投じた初球。そのシーンが今でも忘れられないという。「投げた瞬間に打たれたと分かりました。手からピュッと離れた瞬間に、“あっ”って。バッターとタイミングがバッチリ合ったから。スライダーです。真ん中にスッといって……。あの時のことは鮮明に覚えている。年間に数回ですけど、分かる時ってあるんですよ、打たれる、打たれないというのがね。それが日本シリーズだったから記憶に残っているんでしょうけどね」。

 野口氏は秋山に被弾後、2番・村松有人外野手、3番・大道典良外野手を打ち取って2死にしたが、4番・小久保裕紀内野手と5番・城島健司捕手に連続四球を与えたところで降板。2番手で登板のルーキー・岩瀬仁紀投手がメルビン・ニエベス外野手に2点二塁打を許し、この回3失点。そのまま0-3で中日は第1戦を落とした。

「あそこで僕が打たれていなかったら、0-0だったら、どうなっていたかわからないですよねぇ。あれで勢いが向こうに行っちゃったから」と野口氏は今でも悔しそうに話す。「2試合目(第5戦)の先発は(4回6失点で)ボロクソに打たれただけ。あっちはどうしょうもなかったけど、秋山さんへの1球はずっと覚えている。一生、たぶん忘れない1球だと思う」。結果的に日本シリーズで投げたのはこの年だけ。まさに魔の1球だったわけだ。

2000年に初の開幕投手、6回まで零封も7回に4失点「負けは負け」

 翌2000年、プロ8年目の野口氏は3月31日のヤクルト戦(ナゴヤドーム)で初の開幕投手を任された。結果は7回4失点で敗戦投手。6回まで0-0だったが、7回に飯田哲也外野手に2点適時打を許すなど、4点を失って降板した。「開幕(投手)はしたくなかったんですけどね。僕は(開幕)2戦目に投げる時が(結果も)よかったですから。まぁ、前年19勝しているから、開幕と言われたら“ハイ”しかなかったんでね」。

 やはり開幕は独特なムードがあった。「緊張はしていたと思います。自分の中では1試合は1試合だと思って投げていたつもりでしたけど、周りの空気感が違うんでね。(前年の)日本シリーズも1戦目でやられたし、開幕には特別に弱かったのかなぁ、そう考えると」と苦笑しきり。6回までゼロに抑えたとはいえ「負けは負け。そういう試合は勝たないといけないんです」と口元を引き締めた。

 この年は調子もいまいちだった。33登板で9勝11敗、防御率4.63。「前の年の反動はきていましたね。いろんなものが出たと思う」。連覇を狙ったチームも、優勝した巨人に8ゲーム差をつけられての2位だった。「でもね、その時に休んだから、2001年にすごいボールになっちゃった。2000年はひどかったのに、びびるくらいにボールが速くなったんですよ」と野口氏は言う。

「なんで速くなったのかはわかりません。投げ方は変わったんですけどね。たぶんきっかけは(沖縄のキャンプ地)読谷でブルペンに入った時に、ちょっとついた傾斜で立ち投げしたんですよ。それで体重移動が前で、切り替えるような投げ方で投げて、それがハマったんじゃないかと思う。キャンプのフリーバッティングで山崎(武司)さんに投げた時『お前、ボールが速くなったなぁ』って言われて『そうですかぁ』なんて言っていたんですけどね」

 また流れが変わった。1999年日本シリーズの秋山への1球から2シーズン目の2001年、野口氏は、最優秀防御率と最多奪三振のタイトルを獲得することになる。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY