日本球界に鳴らす警鐘 SNS参考の風潮…加速する“投高打低”に蔓延る問題点

ソフトバンク・近藤健介【写真:冨田成美】
ソフトバンク・近藤健介【写真:冨田成美】

現役時代に捕手として活躍し、慶大、専大、リトルリーグで指導している中尾孝義氏

 プロ野球が28日に開幕するが、近年はセ・パ両リーグともに“投高打低”の傾向が顕著だ。規定打席をクリアした上で打率3割をマークする選手は年々減り、昨季はセ・リーグがDeNAのタイラー・オースティン内野手とヤクルトのドミンゴ・サンタナ外野手の2人。パ・リーグはソフトバンク・近藤健介外野手1人で、計3人しかいなかった。専門家が理由を分析し、少年野球からプロまでを含む球界全体の問題として警鐘を鳴らす。

 NPBのシーズン3割打者は、2021年には11人(セ7人、パ4人)いたが、2022年は6人(セ4人、パ2人)、2023年は5人(セ3人、パ2人)、そして昨季は3人と右肩下がりである。対照的に、規定投球回をクリアした上でシーズン防御率を1点台に抑える投手は増加傾向にあり、昨季は6人(セ5人、パ1人)に上った。

 現役時代に1982年のセ・リーグMVPに輝くなど、中日、巨人、西武で捕手として活躍した中尾孝義氏は現在、東京六大学リーグの慶大、母校の専大、東京都墨田区に本拠地を置く小学生硬式野球チーム「墨田リトル」で、それぞれコーチを務めている。

「プロを含めて全体的に、バットを振り上げるアッパースイングが流行っています。最近はそういう教え方をしている指導者が多いそうですし、インターネット上の動画を参考にしている選手も多いようです」と証言する。

 球界では2010年代後半に“フライボール革命”が起こった。角度をつけて強いフライを飛ばす方がヒットの確率も高くなる、という考え方で、MLBではいち早く取り入れたアストロズが2017年のワールドチャンピオンとなり、急速に広まっていった。時速158キロ以上の打球速度、26~30度の角度で上がった打球が最もヒットやホームランになりやすいとされる。

「その影響だと思いますが、最近はバットを振り出す時に、前の肘(右打者の場合は左肘)が上がり、グリップエンドが上を向いてしまう選手が多い。この打ち方だと、低めはともかく、高めの球に対してはミートポイントが1点しかないことになり、非常に確率が悪くなります」と中尾氏は指摘する。

投手サイドの必勝パターンは「低めへ丁寧に投げる」から「高めへ速い球」へ

 かつて、投手は「低めへ丁寧に投げること」が良しとされていた。しかし、打者サイドのフライボール革命をうけて、高めに強い球を投げた方が効果的だと気付く投手が増えてきたのかもしれない。フライボール革命の反動と言えようか。

 中尾氏は「しかも、最近は投手のスピードが全体的に速くなっていますから、なおさらです。日本のプロ野球でも、私の現役時代は140キロで速い方でしたが、今では160キロ近い速球を投げるリリーバーが珍しくありません。全体的に10キロは速くなっている印象です。日本人の平均身長がどんどん高くなり、背が高く、腕も足も長い投手が増えて、ボールをより前(打者寄り)でリリースできるようになっている」と分析。「アッパースイングではますます、高めの速い球をとらえづらくなっています」と結論づけた。

 そんな中尾氏が指導者として推奨するのが、グリップエンドを斜め下へ向け、バットのヘッドを立てて振り出す打ち方だ。「とにかく現状は空振り、打ち損じが多すぎると感じています。ヘッドが立って出てくれば、タイミングが遅れてもファウルで逃げることができるのです」と力説する。

 例えば、中尾氏が指導する専大に昨年まで、作本想真内野手という大型スラッガーがいた。191センチ、90キロの体格を誇り「凄いパンチ力を持っているのに、ボールをとらえる確率が低かった」という。中尾氏の辛抱強い指導で、「大学生活最後の昨秋のリーグ戦の途中に、ようやく理にかなった打ち方ができるようになった。大学入学後1本もなかったホームランを、そこから3本量産しましたよ」と目を細める。作本は昨年発足したばかりで今年から公式戦に参加する「マルハン北日本カンパニー硬式野球部」から声がかかり、加入。今も成長を続けている。

「今の日本プロ野球でも、結果を出している打者は上へ向かってバットを振っていません。長距離砲の村上(宗隆内野手=ヤクルト)にしても、岡本(和真内野手=巨人)にしても、ヘッドは立って出てきます。メジャーでも、いい打者はそうです」と中尾氏は強調する。

 打者がフライボール革命を起こせば、投手はスピードボールを磨き、アッパースイングで捉えづらい高めへ多く投げ込む。打者と投手をそうやって永遠に、研究と攻防を繰り返していくものなのかもしれない。今季の日本プロ野球はどうなるか……。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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