“打倒・横浜”は「分かりやすい縮図」 東海大相模が目論む新たなスタイル

旭に勝利した東海大相模ナイン【写真:大利実】
旭に勝利した東海大相模ナイン【写真:大利実】

ファンクショナル・ベースボールに込めた指揮官が目指す野球

 5日に開幕した神奈川県高等学校野球春季大会。選抜大会を19年ぶりに制し、公式戦20連勝中の横浜の戦いに注目が集まる中、『打倒・横浜』を掲げるのが、長年のライバルである東海大相模だ。

 6日に行われた2回戦(初戦)では、17-0の5回コールドで旭を下し、好スタートを切った。17安打のうち9本が長打。点差が開いても果敢な走塁で次の塁を狙い、最後まで手を緩めることなく戦い続けた。

 ファンクショナル・ベースボール――。3月はじめ、オープン戦が解禁されるタイミングで、原俊介監督は新しいスローガンを口にした。東海大相模と言えば、「アグレッシブ・ベースボール」の印象が強いが、それをベースにしたうえで、「機能的な」(ファンクショナル)野球を求める。昨年までは、「つながる野球」をキーワードに挙げ、それをさらに発展させた形となる。

「アグレッシブに攻めることは、東海大相模に根付いているものなので、その姿勢を変えるつもりはありません。積極的にプレーする中で、いかに機能的につながり、動けるか。今日は練習でやってきたことを出せたと思います」

 初回に4番・金本貫汰の2点二塁打など、打者一巡の猛攻で7点を先制。2回には先頭の金本が初球にセーフティバントで揺さぶると、その後内野安打で出塁し、二盗に成功。続く、キャプテンの柴田元気が三塁前にセーフティバントを決めて、チャンスを拡大した。

「打つだけの野球では、打てなかった時に終わってしまう。試合の中でいろいろな感覚を掴めるようにと考えています」

 印象的だったのは、4回の攻撃だ。一邪飛で、一塁走者の川本叶生がタッチアップに成功。さらに一塁手からの送球が外野に逸れて、三塁を陥れた。ただ、三塁のオーバーランが甘く、すぐさまベンチにいる長谷川将也コーチから厳しい指摘が飛んだ。

「あれは三塁コーチャーへの指示です。センターがボールを持っていたので、一気にホームを狙う意識でオーバーランをさせていい。まだ詰め切れていないところがあります」。攻撃的、かつ機能的に。高いレベルの野球を目指し続けている。

東海大相模・柴田元気【写真:大利実】
東海大相模・柴田元気【写真:大利実】

奥村頼人、織田翔希をイメージして1000回の素振り

 昨秋は神奈川大会決勝で横浜に2-5で敗れ、関東大会では初戦で山梨学院に5-6でサヨナラ負け。選抜出場を逃し、長い冬を送ることになった。原監督は、選手にこう告げた。

「横浜は日本一を目標に練習をしている。うちもそこを目指してやらなければ、差が開くだけだ」。日々の目標や練習メニューを記すホワイトボードに、『打倒・横浜』と書くことが増えた。最初に書いたのは、長谷川コーチだった。

「横浜が神宮大会で優勝したあとから、『打倒・横浜』と書くようになりました。横浜に勝たなければ、日本一のステージには進めませんから」

 冬場はフィジカルトレーニングと打撃強化に力を入れた。練習で1日500スイング、さらに全体練習の終わりには全員で声を揃えて、1000回の素振り。頭の中でイメージしたのは、奥村頼人、織田翔希を中心とした横浜の投手陣だ。

「『奥村、織田を打つ!』と言葉にしながら、バットを振っていました。あの2人を打たなければ、横浜には勝てないので」とキャプテンの柴田。5か所で行うバッティング練習では、3台のピッチングマシンのうち1台を150キロ超に設定し、継続的に速球対策に取り組んだ。

 選抜は、横浜の初戦となった市和歌山戦を全員でテレビ観戦。その後、秋の王者は春の王者となり、2021年の東海大相模以来4年ぶりに紫紺の優勝旗を神奈川に持ち帰った。

東海大相模・中村龍之介【写真:大利実】
東海大相模・中村龍之介【写真:大利実】

横浜を倒して日本一に「分かりやすい縮図になった」

 東海大相模は、横浜の優勝をどう見ていたのか。まずは、指揮官の原監督。「横浜が優勝したことで、分かりやすい縮図になったと思います。相手は大将。横浜を破れば、先が広がる。当然、やっつけにいくつもりでやっています」。また、長谷川コーチは「強いですよね。投手、野手にしっかりとした柱がいて、脇役も脇役に徹している」と話す。

 東海大相模で野手陣の柱となり、ドラフト候補にも挙がる3番・中堅の中村龍之介は「同じ県の横浜が日本一を獲ったことで、『横浜を倒して日本一』という目標が明確になりました。そういう意味でありがたいです」。横浜の3番・中堅は、選抜で大活躍を見せた阿部葉太だ。当然、意識はある。「阿部が打ったら、自分も打たないといけない。阿部を超すためにしっかりと練習をする。刺激になっています」。

 最後はキャプテンの柴田。「同じ神奈川のチームとして、『悔しい』というのが一番です。自分たちが横浜を倒したい。同じ小柄なセカンドとして、奥村凌大にも負けたくないです」。

 神奈川の高校野球を長くリードしてきた東海大相模と横浜。ライバルが強ければ強いほど、相乗効果でレベルが上がる。『ファンクショナル・ベースボール』を突き詰め、横浜の連勝記録を打ち破りにいく。

(大利実 / Minoru Ohtoshi)

○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。

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