右肩負傷で呼吸すら“困難” 18歳ドラ1がプロ入り後に感じた洗礼「どうしよう」

プロ1年目の元広島・今村猛氏【写真提供:産経新聞社】
プロ1年目の元広島・今村猛氏【写真提供:産経新聞社】

今村猛氏は2009年ドラ1で広島入団…話題になった「カピバラに似ている」

 元広島投手で通算115ホールドをマークし、現在はパーソナルトレーニング専門ジム「R-GYM」(広島市中区)のオーナーでもある今村猛氏は2010年のプロ1年目キャンプを1軍でスタートした。2009年選抜大会で優勝した長崎・清峰高のエースだったドラフト1位右腕は高卒新人組の中で1人だけハイレベル軍団の中に入り、「どうしよう、どうしようって感じだった」という。そんな中で話題になったのが「カピバラに似ている」だった。

 現役時代に通算2020安打をマークした野村謙二郎監督の就任1年目シーズンに、今村氏はドラフト1位で広島に入団した。背番号は16。「球団からは16か24のどっちがいいかと言われましたが、24は左ピッチャーのイメージがあったのでね。大野(豊)さん(当時は1軍ヘッド兼投手コーチ)が(現役時代に)つけていた番号でしたし……。16も山内(泰幸)さん(当時1軍投手コーチ)がつけておられた番号でしたが(自分と同じ)右でしたから選びました」。

 くしくもカープ生え抜きで実績ある“元24番”と“元16番”が1軍コーチ。そんな中で選んだ「16」だった。キャンプはその2人がいる1軍。同期の高卒新人は育成も含めて5人いたが、1人だけ1軍帯同となった。「すごい練習するな、すごいなと思いました。でも緊張して、それどころじゃなかったのもありました。一番年下でどうしよう、どうしようって感じでした」。3歳年上の前田健太投手(現タイガース)と行動を共にすることが多かったという。

「前田健太さんにはお世話になりました。同じ組で回ることも多かったし、投げることもそうですけど、走ることも、守ることも、打つのもすごかったので、全部が勉強でした。ただ、何をどうすれば、追いつけるのかなっていうのはわからなかったです。練習はきつかったです。(高校と違って)毎日、一日やるわけですからね」。それでも必死に食らいついた。そんな時に「カピバラに似ている」と話題になった。

定着した“カピバラ3兄弟”…CMに出演するほどの人気

 2009年にカープで現役を引退し、新たに1軍チーム付き広報に就任した比嘉寿光氏がブログにそう書いたのがきっかけだった。「(比嘉氏の)他には誰からも言われていなかった。みんなから言われていたわけではないんですけどね。ブログでファンの方に先に伝わったのかな。知っている人は知っているという感じでした。ファンの方からは、そういうぬいぐるみとかをプレゼントされたりしましたね」。

 今村氏=カピバラのイメージはどんどん浸透し、のちにはそれを題材とした限定Tシャツが球団のオフィシャルグッズショップで販売された。その後も2013年広島ドラフト1位で同郷の長崎出身の大瀬良大地投手も“カピバラ顔”とのことで「カピバラ兄弟」と呼ばれた。さらにFA権を行使して巨人に移籍した大竹寛投手の人的補償で広島入りした一岡竜司投手も同タイプと見られ、“カピバラ3兄弟”も定着。2019年から2021年までは中国電力のCMにも3人で出演するほどブレークした。

「すべては比嘉さんから始まりました。CMにまでなりましたからね」と比嘉氏の“見る目”に感謝しているが、「似ている」と言われた当初はそこまで盛り上がるとは思ってもいなかっただろう。そんな1年目のキャンプを乗り越え、今村氏はオープン戦もそのまま1軍に帯同した。だが、気付かぬうちに無理をしていたようで、オープン戦終盤に右肩甲骨付近を痛めた。「初めて痛めた箇所でした。けっこう痛かったです。呼吸するのも痛かったですからね」。

 この故障がなくても2軍落ちの予定だったが、プロで初めての試練でもあった。「たぶん、肉離れだったと思います。でも、大して治療とかしていないですよ。自然と治るのを待つって感じでした」。その後は少々、痛くても投げたという。「あまりよくないことですけど、僕は1年目からどうにか活躍したいと思っていたので、(完治前から)投げていました。何とか投げられたのでね」。カピバラ似の高卒ルーキーは1年目の8月に1軍デビューを果たすことになる。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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