抜け出せぬ不調も…TVスタッフは“ニヤニヤ” イライラ募り試合中に激怒「何ですか!」

現役時代の元広島・今村猛氏【写真:産経新聞社】
現役時代の元広島・今村猛氏【写真:産経新聞社】

今村猛氏は4年目も活躍したが…「シンプルに成績はよくなかった」

 思わぬところで注目を集めた。広島一筋で通算115ホールドをマークした今村猛氏は、プロ5年目の2014年に“珍プレー”で話題になった。6月14日のロッテ戦(QVC)に登板した際、帽子の後ろにトンボがピタリ。そのまま投げ続けたシーンだ。本人が気付くことなくテレビカメラにとらえられたが、最初はわけがわからなかったという。「打たれてちょっとイラっとしていたんです」と当時の“状況”も説明した。

 プロ3年目の2012年、今村氏は69登板で26ホールド、防御率1.89の大活躍。2013年の第3回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本代表にチーム最年少の21歳で選出された。ところが、WBCではシュートの多投をきっかけにフォーム崩し、2登板で2回3失点。プロ4年目の2013年も状態はなかなか戻らなかったという。

「何かが違っていた。スピード自体は変わらなかったんですが、キレがなくなったのかなと。バッターの反応がよくないというのがあったんで……。そう考えると疲れていたのかもしれない」。2012年シーズンから実質、まともに休むことなく日本代表の一員としてプレーしてきた。日の丸の重圧とも闘うWBCで調子も落とし、精神的にも苦しかったし、終わって疲れもどっと出たようだ。

 2013年は57試合に登板。2勝5敗3セーブ18ホールド、防御率3.31だったが、「シンプルに成績はよくなかったです」と悔しそうに話す。野村謙二郎監督率いる広島は16年ぶりのAクラス3位に入り、クライマックスシリーズ(CS)に初出場。ファーストステージでレギュラーシーズン2位の阪神を2勝0敗で撃破した。ファイナルステージはリーグ優勝の巨人に0勝3敗で終わったものの、このCSに今村氏の登板はなかった。

 大きな怪我などはなく、あくまで「調子が悪かった」と言う。「やっぱり野球をやりながらだと戻すのは難しかったです」と振り返った。5年目の2014年はさらに状況は悪くなった。キャンプから調子が上がらず、開幕1軍も逃した。開幕4カード目の4月8日に昇格したものの5登板で防御率9.00。4月21日に登録抹消となった。「完全に不調でした。よくなかったです」。

広島で活躍した今村猛氏【写真:山口真司】
広島で活躍した今村猛氏【写真:山口真司】

ロッテとの交流戦…帽子の後ろに止まったトンボ

 2軍ではもう一度、一からやり直したという。「今までやっていたことをやりました。練習だったり、投げ方だったり……。結局、気付いた時には違う体になっていたんです、基本的には。で、それを分解したりとか調整したんですけど、全くうまくできなかった年です。そのへんはきつかったですね」。挫折といっていい。6月6日に1軍昇格したものの、いい時の状態には程遠かった。とにかく何とか結果を出そうと必死になって投げた。

 有名になった“トンボシーン”は、そんな1軍復帰後、4登板目だった6月14日のロッテ戦での出来事だった。0-3の6回、先発・大瀬良大地投手への代打・中東直己外野手の中前打を足掛かりに菊池涼介内野手の適時打と丸佳浩外野手の3ランで逆転。今村氏はその裏に登板した。しかし、2死から井口資仁内野手に四球を与え、今江敏晃内野手に三塁打を許して同点にされた。

 今村氏にとって、1軍復帰後の初失点。不調から抜けだそうとしていた中でリードを守れず、悔しい思いだった。その回を踏ん張り、続投の7回は17球で三振、遊飛、右飛の3者凡退に抑えたが、同点を許した自身に納得いかなかった。何とも言えない気持ちでベンチに戻ってきた時、不自然な視線が気になったという。「(テレビの)カメラの人がニヤニヤして僕を見ていたんですよ」。

 7回は無失点だったとはいえ、状況的にとても笑える心境ではない。「点を取られたのに、何、人の顔を見て笑っているんだ、ふざけるんじゃないよと思って『何ですか!』って言ったんです。そしたら『帽子』『トンボ』って」。7回のマウンドから今村氏の帽子の後ろ部分にトンボがピタリ。打者3人に17球を投げた間、ずっと止まったままだった。テレビカメラマンはそれに微笑んでいたわけだ。

選ばれた珍プレー大賞…「周りからいろいろ言われました」

 事情を知っても失点した気分が晴れるわけではない。「“いいとこ、撮れたぞ”みたいな感じでカメラの方は思っていたんでしょうけどね」。試合は8回に3番手の中田廉投手が打たれて4-8。広島は9連敗となった。もちろん、その時はこのトンボシーンがオフに話題になるとは想像もしていなかった。

 実際、そのシーズンはそれどころではなかった。広島は翌6月15日のロッテ戦で連敗を脱出し、そこから6連勝。今村氏は6月22日の日本ハム戦(マツダ)で4-4の延長10回に“トンボシーン”以来の登板で、1回無失点。その裏にライネル・ロサリオ外野手のサヨナラ3ランが飛び出し、シーズン初白星をマークした。しかし、完全復調には至らなかった。7月13日の中日戦(ナゴヤ)で5-4の6回に3番手で登板したが、1/3回を2失点で敗戦投手。翌7月14日に2軍落ちとなった。

 そのまま、1軍に戻ることなく5年目は1勝1敗、防御率4.35で終了。広島は3位でCSに進出したものの、この年も今村氏の出番はなかった。まさに苦しい時期。そんなオフに“トンボシーン”が珍プレー大賞に選ばれた。「正直、それはどうでもよかったんですけどね」と苦笑する。「選ばれたけど、(テレビ局の)スタジオとかには行っていないんでね。『取りましたよぉ』とだけ言われて……。(不調だった)僕のことを気遣ってくれたんじゃないですかね」。

 珍プレーの反響は大きかったという。「周りからいろいろ言われました」。不調のシーズンに話題となった“トンボシーン”。その映像は貴重な珍しい場面としてずっと語り継がれていくことだろう。降板直後にイラっとしたのも含めて「今となっては思い出ですよね」と笑みを浮かべた。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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