医師に懇願「痛みがなくなるまで注射して」 大一番直前に異変…想像を絶する“舞台裏”

今村猛氏は2016年に67登板で22ホールド…リーグ優勝に貢献
通算115ホールドを挙げた元広島右腕・今村猛氏は、2016年の25年ぶりリーグ優勝に中継ぎとして貢献した。ポストシーズンでもフル回転。DeNAとのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージでは2試合に登板、2勝4敗で敗れた日本ハムとの日本シリーズでは全6試合でマウンドに上がり、4ホールド、防御率1.69と気を吐いた。もっとも舞台裏は壮絶だった。CS前に体に異変が発生。そんな状況で懸命に腕を振った。
投球フォームを「小さくシンプルに簡単にして」臨んだプロ7年目の2016年、今村氏は67登板で3勝4敗2セーブ22ホールド 防御率2.44の成績でリーグ優勝を支えた。ジェイ・ジャクソン投手、中崎翔太投手とともにリリーフ陣の柱として大活躍。それはポストシーズンでも続いた。1勝アドバンテージを含めて4勝1敗で制したDeNAとのCSファイナルステージ(マツダ)では2試合に登板した。
10月13日の第2戦では2-0の7回から、先発・野村祐輔投手の2番手で登板して1回無失点でホールド。8回をジャクソン、9回を中崎が抑える“勝利の方程式リレー”を完成させた。次の出番は10月15日の第4戦。8-6の7回から3番手で登板し、ホセ・ロペス内野手に一発を浴びて1点差に迫られたが、踏ん張って1回1失点でホールド。8回、9回はジャクソン、中崎が無失点で切り抜けてCS突破を決めた。
奮闘は続く。10月22日にマツダスタジアムで開幕した日本ハムとの日本シリーズでは全試合に登板した。相手先発が大谷翔平投手だった第1戦は3-1の7回途中にクリス・ジョンソン投手をリリーフし、1/3回無失点でホールド。ジャクソン、中崎につなげて広島が勝利した。第2戦(10月22日)は5-1の7回に登板して三振、三振、中飛の打者3人でピシャリ。この試合もジャクソン、中崎へのリレーが決まって連勝となった。

CS前に腰痛を発症も…日本シリーズでは全6試合に登板
しかし、ここから広島はまさかの4連敗。敵地・札幌ドームでの第3戦(10月25日)終盤にジャクソンとリリーフ登板の大瀬良大地投手が打たれて延長10回3-4でサヨナラ負けし、流れが変わった。今村氏は第5戦(10月27日)の7回に1-0から同点に追いつかれた1失点以外はゼロに抑えたが、残念ながら日本一はつかめなかった。「たまたまひっくり返されたのが続いただけだったんですけどね……」。短期決戦の怖さでもあった。
そんな中で今村氏はフル回転で投げ続け、シリーズ最多の4ホールドをマークした。「全試合に投げましたけど、移動日もあったし何の問題もなかったですよ。大差なら別ですけど1、2点負けているくらいだったら行く気でいましたしね。もう(今年は)これで終わりだと思って投げていました」と振り返ったが、コンディションは決して万全ではなかった。それこそCS前は投げられる状態ではなかったという。
「腰がCS前にヘルニアっぽくなったんです」。かなりの痛みがあった。だが、せっかくリーグ優勝を果たしたのに、ここで終わりたくなかった。“勝利の方程式リレー”の一員としても、離脱は絶対避けたかった。「ブロック注射を1週間で3本打ちました。『投げられるようにしてください』とお願いして『痛みがなくなるまで注射を打ってください』と言って打ってもらいました」。何としても試合に出るとの意気込みだった。
そして迎えたCS、日本シリーズ。無理をしていたのは間違いない。でも、そんなそぶりはかけらも見せなかった。「何とか投げることができましたからね」。与えられた持ち場で普段と変わらず全力を尽くした。「日本シリーズは勝ちたかったですね。取れる試合も多かったのでね……」と今村氏は悔しそうにも話したが、最初から最後まできっちりやりきったプロ7年目シーズンだった。
(山口真司 / Shinji Yamaguchi)