「失敗していいぞ」と叫ぶ指導者 型にはまらぬ選手育成で成長…東京・駒大高の挑戦

川端教郎監督は同校OB、目指すのは甲子園出場
“強豪校の逆をやる”という理念からは、高校野球の本質的な変化と普遍的な指導哲学が見えてきました。フリーアナウンサーをしている私、豊嶋彬は東京の令和の高校野球を取材しています。今回の取材は駒大高です。「自主性」と「放任」の紙一重の関係、「大きく育てる」という育成観ー今の指導者はどのように令和の高校生と向き合っているのか。この取材から見えてきた高校野球の新しい流れをお届けします。
独自の指導方針のきっかけは、1981年生まれの川端教郎監督が同校の選手だった時代、当時の指導者が従来の強豪校とは全く異なるアプローチを実践していたことです。声を揃えたウォーミングアップや丸刈りといった慣習に疑問を投げかけるその環境に入部当初は拍子抜けしたものの、後に「自分たちで考える力」が育まれたことに気づきました。
時代は昭和から令和へと移り変わりましたが「自分で考える」という根本的な理念は変わらず、ただアプローチの仕方を現代の選手たちに合わせて進化させていると川端監督は言います。
教員への道を歩み始めたきっかけは予期せぬ出来事でした。大学2年から3年に上がる際に交通事故に遭い、野球を続けられなくなってしまいました。現在の校長から「教員を目指したらどうだ?」と声をかけられたのです。実はこの校長、川端監督が高校1年生の時の担任だったのです。大学生になっても目をかけてくれていました。剣道をやっていた厳しい指導者から「人間というもの」を叩き込まれた経験が、現在の指導の根幹になっています。この長年にわたる信頼関係が今も続いているのは印象的でした。
「自主性を重視と言えば、聞こえはいいですが、自由放任という面もある。この二つは紙一重です」と語る監督の言葉には深みがありました。単に自由にやらせるだけでは意味がなく「野球が楽しい」という入口から「うまくなるには頑張らないといけない」、そして「組織としてどう振る舞うか」という段階を、選手の成長に合わせて指導しています。「昭和の泥臭さ」という表現も用いながら、社会ではときに組織の歯車になることも、ときには前面に出ることも必要で、そのバランス感覚を身につけた選手を育てたいという理想があります。

最後は気持ちではない…川端教郎監督の教え
練習では「昨日の自分より成長する」、試合では「持てる力を最大限発揮する」をモットーに掲げています。「100本よりも1000本バットを振った方がうまくなるきっかけは増える」という考えから「昨日より明日、明日より明後日」を意識した体力づくりを重視。また「失敗を恐れたら次の一歩を踏み出せない」という信念から、チャレンジしないことには厳しく、挑戦したことには寛容な姿勢で臨んでいます。この一貫した姿勢が選手たちに安心感を与えています。
今年の3年生は中学時代に強豪の硬式チームで野球をしてきた選手が多いそうです。「うちの子たちは多分こぢんまりいい子ちゃんできている子が多いので、それを大きく大きくしてやって、多少枠からはみ出ることを覚えさせて、そこから小さくしていく。そうした指導をしていかないと、本当に勝てるチームであったり、積極的にチャレンジする人間に成長していかない」とのこと。
中学時代にしっかりと野球を教わってきた彼らは、駒大高に入ってきた時、その環境に戸惑うこともあるそうです。「普通」の枠にはまりがちな彼らに「ミスしていいぞ、失敗していいぞ」と声をかけ続けた結果、「そうやった方が楽しいし、結果が出る」と理解し始めていると言います。
指導の中で特に印象に残ったのは「最後、気持ちに頼る奴は技術がないやつだ」という言葉です。「最後は技術だぞ」と話しているそうですが、その技術はあくまでも土台の上に乗っかっている部分。その土台というのはやっぱり人間性であったり、努力であったり、思考力であったり、それこそ振る舞いであったりとか、そういう普段のものがあって初めてその上に技術というのが成り立つと伝えています。
勉強に例えると、教員でもある川端監督は「とにかく知識をとにかく覚えさせる」と言い切ります。知識という土台があって、初めて思考力や判断力が知識の土台の上で成り立つ。知識量が多ければ多いほど、その上に乗ってくる野球でいう技術、勉強でいう思考力や判断力っていうのが伸びていくと思っているということなんです。
その中で、知識を体で表現するためには一人、一人がすべて動き方、考え方が変わるので「自分はどうしたいのかを探求しなさい」という指導をしています。技術に関してもやっぱり思考力、判断力、そういったものがないといけない。自分を俯瞰して見ることが必要ですね。実戦になれば、打席で次に変化球が来るのか、それによって打者は何を狙うのか、ランナーはスチールを狙うのか。そういったものをやっぱり野球で教えることが「考えられる人間になっているのかな」っというふうに語っていました。
さらにその大前提にあったのは「失敗を恐れたら、もう次の一歩を踏み出せないので、チャレンジしないことに関しては怒るけど、チャレンジしたことに関しては、言わないです」という考え方でした。目標を伺うとやっぱり、当然「甲子園」とキッパリ。それはもう揺るがないですという答えでした。
川端監督は昭和、平成の時代を選手として過ごしてきました。令和の時代で指導者になっても本質は変わらず、内面的な自立と思考力を重視する指導が若者の可能性を引き出しています。駒大高は「人間形成」の本質からチャレンジの大切さを教えています。
信頼関係があってこそ厳しい指導も届きます。「この人の言うことを聞けば楽しいし、上達する」と思わせる関係構築が先にあり、「野球が楽しい」という原点から技術向上と組織の成長へとつながっていく過程は、高校野球に限らず教育全般に通じる真理でしょう。
自分の考えをしっかり言葉にして伝える監督の姿勢から、高校野球を通じた「人づくり」の真髄を垣間見た貴重な取材でした。
【筆者プロフィール】
○豊嶋 彬(とよしまあきら)1983年7月16日生まれ。フリーアナウンサー、スポーツMC。2016年から高校野球の取材活動を始め、JCOMの「夏の高校野球東西東京大会ダイジェスト」のMCを務めている。高校野球への深い造詣と柔らかな語り口を踏まえた取材・実況が評価されている。スポーツMCとしての活動のほか、テレビ番組のMCなど幅広く活動中。Xのアカウントは「@toyoshimaakira」、インスタグラムは「@toyoshimaakira」。
(豊嶋彬 / Akira Toyoshima)
