150キロ復活へ“2倍補強”の手術方式 リハビリ中の吉田輝星が目標に掲げた存在

つらいリハビリも「野球ができれば、なんでもいいっす」
明るい未来が、つらいリハビリを前に進める。3月7日に右肘内側側副靭帯再建術(トミー・ジョン手術=TJ手術)と鏡視下右肘頭骨棘切除術を受けたオリックスの吉田輝星投手が本格的なリハビリをスタートさせた。
「進化した姿を、常にイメージしながらリハビリをしています」。4月24日、大阪・舞洲の球団施設で吉田が屈託のない笑顔で声を弾ませた。
手術から39日目、球団施設から隣の人工島・夢洲で開かれている大阪・関西万博の大屋根リングが見える遊歩道まで散策をした。「いつもはマシンで歩いているのですが、今日はお天気が良くて。これからはグラウンドも歩こうと思っています」。青空に誘われ、身も心も軽くなったのだろう。
順調な回復ぶりだ。術後12日目には球団施設を訪れ、経過を報告。23日の診察で、1か月半後にボールを持つための準備としてウエイトトレーニングを始めることが決まり、器具を使ったトレーニングが始まった。
早い回復を支えているのは、手術方式だという。通常は左手首から靱帯を移植するが、そこに人工靱帯を加えている。吉田によると「移植しているうえに、人工靭帯をかぶせているので2倍補強をしているような感じ」だという。
「ボールを投げるまでに、細くなった右腕の筋肉を左腕に近づけていくようなトレーニングをします」と吉田。24日に公開した自身のインスタグラムでは、腕の太さの違いを「左右差3.5センチ」と明かしており、筋肉量を増やしていくことが当面の課題になる。
支えになっている楽天右腕の存在「僕にとって貴重なんです」
チームには山崎颯一郎投手や椋木蓮投手らTJ手術経験者や、河内康介投手、宇田川優希投手、小木田敦也投手らTJ手術を受け復帰を目指す仲間がいて、心強い。
そんな中で、吉田が目指す一人が中日の岩崎翔投手。同じ方式で手術したそうで、術後の立ち投げで150キロをマークし、今年4月の巨人戦で勝利を挙げた。「岩崎さんは球速が速くなって157くらいを投げているそうなので、僕もそういう可能性はあります。やはり、アベレージで150キロを出していないと勝ちパターンに入れませんから。肘が復活すれば痛みもなくなって、機能的には絶対によくなっているはずなんで」と、目を輝かせる。
もう一人、仲間も増えた。10日後に同じ大阪府内の病院で手術を受けた楽天・酒居知史投手。週2回、病院でのリハビリで会うが「同じ病院で、同じタイミングで話ができる酒居さんの存在は、僕にとって貴重なんです」
「術後、3か月で軽くネットスローを始めて、ちょうど仕上げていく時期にオフシーズンに入るので、いいタイミングで手術をしたと捉えています」と来シーズンでの復帰を目指す。
不安材料もある。椋木らから聞く感覚のズレだ。“新しい肘”で痛みの悩みからは解放されるが、投手の命でもある指先の感覚を戻すことには時間がかかる。それでも、吉田の表情は変わらない。「経験した人からは『今までの腕とはちょっと違うよ』と聞いています。でも、調子が悪いなんてことより、はるかにしょうもない悩みなんで。今までけがをして休んだことがないので、野球ができれば、とりあえずもうなんでもいいっす、という感じです」と笑い飛ばす。
リハビリと同時に、フォームの改造・修正にも取り組む。「けがをしたという原因の中には、フォームの問題もあると思います。長いリハビリ期間中に、じっくりと考えて修正したいと思います」。鹿屋体大でデータを収集し、新球の開発に取り組むなど、研究熱心な吉田だけに新たな姿で復帰してくれることだろう。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)




