自ら“消した”平野の通算250セーブ 脳裏にこびりつく光景…安達コーチがいま語る思い

オリックス・平野佳寿【写真:栗木一考】
オリックス・平野佳寿【写真:栗木一考】

2024年5月1日にまさかの1イニング3失策

 自分のこと以上に喜びが込み上げた。オリックスの安達了一・内野守備走塁コーチが、平野佳寿投手の2年越しの偉業達成に安堵の表情を浮かべた。

「泣きそうになりました。我慢しましたけど。(僕が)一番、ほっとしましたよ、本当に」。4月3日のロッテ戦(ZOZO)で、平野が史上4人目のNPB通算250セーブを果たした瞬間を、安達コーチは昨日のことのように振り返った。

 大記録に王手を掛けていた平野は3-2の9回から登板。簡単に2死を取ったが代打・角中勝也外野手に四球を与え、続く高部瑛斗外野手に左前打を許し、一、二塁のピンチを迎えた。「お願いします。このまま、(試合が)終わってください」とベンチで戦況を見つめていた安達コーチの願いも通じたのだろう。平野はドラフト1位の新人・西川史礁外野手(青学大)をカウント1‐2からの4球目、“伝家の宝刀”のフォークで空振り三振に仕留め、偉業を達成した。

 2024年4月28日以来、約1年ぶりのセーブ。安達コーチにとっても、長い1年間だった。兼任コーチだった昨年5月1日のロッテ戦(ほっともっと神戸)、3-1の9回から守備固めで出場するも、まさかの1イニング3失策。チームは逆転負けし、平野の「250セーブ」も自ら消してしまった。

 平野はその後、右肘の張りや下半身のコンディション不良などで公式戦出場は1試合にとどまり、記録達成は持ち越された。一方、安達コーチはこの失策で現役引退を決意するという、生涯忘れることのない1日になった。

安達コーチ「ほっともっとに行けば頭によぎる」

「あの後、平野さんの調子があまり良くなくて、自分のせいで遅くなったのだと思ってやってきたんで、ほっとしました。自分でもあの試合が、いろんな意味を持っていますし。ずっと早く(記録達成を)してくれないかな、と思っていました」と真情を吐露する。

 2023年に日米通算250セーブを達成していた平野の「もう250セーブは日米通算でやっているので、(NPB250セーブは)そんなに気にしていません」というメディアを通しての発言も、チームメートへの平野の配慮として受け止め胸に迫るものがあった。

「彼がそう思っているかも知れませんが、僕はなんとも思っていなかったんで」と平野は平然と話すが、「試合後に『僕が一番、喜んでいます』と言ってくれました」と笑顔で明かしてくれた。

 今、後進を指導する立場となった安達コーチ。「肩の荷は下りましたが、ほっともっとに行けばそんなことが頭をよぎることがあると思います。ファンの方の頭の中にも、そういうのがあるでしょうし。でも、それは一生、取れないんでしょうがないですよね」と、あの夜の出来事を心に刻む。

 打球を読む準備や、堅実で広い守備範囲から名手と呼ばれた遊撃手。「元々、名手なんて思ったこともありませんし、思わないですよ、あんなエラーをしていたら」と安達コーチ。失策について「誰も、エラーをしようと思ってはいません。何とか投手を助けたいと思うから、焦るんです。エラーはありますから、それを周りも含めてどうカバーするか。エラーをしてもそのあとが大事なんです。試合中に下を向いても仕方がありません。あきらめずに声を出すとか、できるんです」。

 自身もあの夜、批判を一身に浴びながらも、声を出し毅然とグラウンドに立ち続けた。後輩たちにも、プロの矜持を伝え続ける。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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