九里亜蓮に指揮官も思わず「バケモノですね」 右腕が追い求める“レジェンドの姿”

カープのレジェンドが教えた“信頼”
オリックスの九里亜蓮投手が、広島時代の先輩で日米通算203勝を挙げ“ミスター完投”と呼ばれた黒田博樹さんを目標にマウンドに登っている。
「黒田さんのように、年齢を重ねても第一線で活躍できるよう年々、レベルアップしていきたいと思います」。九里が自身の未来の姿を、カープのレジェンドに重ねた。
黒田氏は上宮高(大阪)、専修大から1996年ドラフト2位で広島に入団。MLBに挑戦し、ドジャース、ヤンキースで活躍後、広島に復帰し2016年10月に引退するまで日米通算203勝(184敗、1セーブ)を挙げた。
2024年に日本の野球殿堂入りした右腕の偉業は枚挙にいとまがないが、特筆されるのは完投への“こだわり”だろう。プロ初登板で完投勝利を挙げて以降、日米通算で先発だけで200勝を達成。引退した2016年4月の巨人戦(マツダ)では120球、被安打4で完封勝利したが、41歳以上の完封は史上4人目の快挙だった。
2013年ドラフト2位で亜細亜大から広島入りした九里は、プロ2年目から2年間、黒田の薫陶を受けた。「『完璧を求め過ぎず、1年間、安定して投げるピッチャーが、一番信頼を勝ち取るピッチャーだから』という言葉をもらったのは、3年目の2016年。1年目に20試合(先発16)に登板し2勝(5敗)を挙げた九里だが、2年目は7試合の登板にとどまり未勝利に終わった。「絶対にゼロで抑えなくてはいけない」と完璧を求め過ぎていた心を解放してくれる言葉で、4年目以降、九里は先発としての地歩を固めることができた。
完投にもこだわる。投手の分業制が確立されている中で、2018年以降、2022年を除き、完投を記録。2023年には3完投をすべて完封でやってのけた。
今季も「常に最後まで投げたい」
オリックス入り後は、4月18日の日本ハム戦(京セラドーム)で、9回を107球、被安打7、5奪三振、1四球、1失点で初完投。今季初の中5日の登板でマウンドを守り切った姿に、岸田護監督は「本当に頼もしい。気迫が場内にも伝わったと思います。本当に素晴らしいですね、バケモノですね(笑)」と冗談を交えながら高い評価を惜しまなかった。
移籍1年目の今季、5試合に登板し、負けなしの3連勝。5試合のうち、リードを保って8回で降板したのが2度。いずれも完投ができる状況にあったが、他の投手に登板機会与えるためや、「中5日」となる次回登板に備えてマウンドを譲った。
厚澤和幸投手コーチは「完投にこだわりを持つのは非常にいいことです。亜蓮が完投できるのはわかっているんです。次が中5日の登板でなければもう1回、行ってます。でも、チームとしてやらなきゃいけないこともあるんです」と説明する。
「僕の希望は伝えますが、決めるのは首脳陣の方。常に最後まで投げたいと思ってマウンドに登っているんで、その気持ちはこれからも変わりません。1イニングでも長く投げたいという気持ちを継続しながら、(投球内容を)反省するところは反省してやっていきたいと思います」と九里。33歳の右腕は、フォア・ザ・チームに徹しながら、高みを目指す。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)




