“ハンデ”を抱える宮城大弥 中3で向き合った現実…「小よく大を制す」思考法

中学までは背の順で後ろも…中3でパタリ
オリックスの宮城大弥投手は小柄な体格のハンディキャップを、アウトの取り方にこだわらない柔軟な発想で克服している。
「一番の理想は、速い球を投げて三振を奪ったり、アウトを取ったりすることで、それを多くするための練習をしています。でも、真ん中にスローボールを投げようが、100キロの真っすぐを投げようが、アウトを取ったら正解なんで、そういう考え方をしています」。宮城が投球の極意を語ってくれたのは、体格のハンデをどのようにカバーしているのかを聞いた時だった。
現在、171センチ、85キロの宮城。「背を伸ばしたい」という一心で、小中学校の給食では、飲まない児童・生徒の余った分の牛乳を率先して飲んだ効果もあったのだろう、クラスで真ん中より後方の背の高さだったという。しかし、中3で身長の成長は止まってしまった。
極意を悟ったのは、高校に入ってからだという。「データで見たら、ハンデは感じます。身長2メートルや190センチの人が投げるリリースポイントとの差はあり、僕が150キロを投げれば190センチの人は155キロは投げられるんじゃないかと思います。馬力もやっぱり違うんで、そういうところはうらやましいなという気持ちでいます」。
ただ、「うらやましい」だけで終わらない。「うらやましい気持ちはあるのですが、それが全てではありません」と言い切るところは、オリックスのエースから日本のエースに成長しつつある宮城の真骨頂だ。
「自分では、変なボールを投げてしまったと思っても、アウトを取ればお客さんや監督、コーチは『いいボール』でその選択肢が正解だったとしか思わない。(ボールを)引っ掛けてそれで三振を奪って、自分の中では失投であっても、それが勝ちにつながるなら、もう喜んでもいいんじゃないかなと」。理想を追求するだけでなく、現実と向き合い解を求める。
一連の考えを、「うまく野球をする」と宮城は表現する。「自分の感覚の問題なので、悪かろうがよかろうが、アウトを取ればいい。全球、100球、120球をうまく投げることができるわけではありませんから」
投球術も磨いてきた。「全力で投げる時もあれば、8割(の力)でコントロールする時もあります。調子が悪い時もありますし、打者を見て直感を信じてみたりする時もあります。そういうところはやってきました」という。
小さいころから宮城にアドバイスを送ってきた父の享さんは「やっぱり体が小さいので、本人は試行錯誤しながらやっていました。球速を上げるより、ボールの質を上げればもっとスピードは上がっていくという話はしました。あとは推進力と遠心力ですね。体を回転させながら前に行く力。これが一致したときに体の力がうまく流れるよ、というのは教えてきました」と明かす。
「沖縄ではちっちゃい子どもが多いので、プロに行けなかった子もいっぱいいました。大弥はそれを克服するのではなく、『小さくてもできるということを証明したい』と言っていました」と享さん。
中学で侍JAPANのU-15、高校でU-18の日本代表入りして目標をクリア。プロ入り後は新人王に輝き、WBCでは世界一に貢献した。190センチから最速165キロをマークした佐々木朗希投手(ドジャース)に球速ではかなわないが、150キロ超のストレートと右打者の内角に食い込むスライダーに、90キロ台のカーブを交える頭脳的なピッチングで打者を翻弄する。
発想の転換で“小よく大を制す”。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)




