戦力外→“無職”で覚悟「もうチャンスない」 新妻と赤子連れ…元オリ右腕が渡米したワケ

山本由伸と米国で“再会”…元オリックス・鈴木優の今
彫りの深いマスクが、さらに引き締まっていた。オリックス、巨人で8年間の現役生活を過ごした鈴木優氏は、米国・ロサンゼルスに移住している。「小さい頃から、洋楽や洋画も好きだったんです。元々、アメリカに行きたいなという思いがありました。野球を続ける選択肢がなくなった以上、アメリカに行くと決めましたね」。妻と子も一緒に米国へ。決断は、2度目の戦力外通告にあった。
鈴木氏は2014年ドラフト9位でオリックスに入団。都立・雪谷高からのプロ入りで「都立の星」として奮闘した。新人年の2015年には1軍デビューも果たしたが、その後はファームでの生活が長く、プロ初勝利は2020年7月1日の西武戦まで“お預け”だった。
2021年オフにオリックスから戦力外通告を受けて、2022年は育成契約で巨人に入団した。同年オフに現役を引退。地道な努力で掴んだ1勝は、今でも大切な記憶となっている。移住を決断したのは、2度目の戦力外通告を受けたタイミングだった。
「野球生活が終わったタイミングで(米国に)行ってみるのが1番いいのかなと。例えば、何か仕事を始めると、1年も2年も海外で過ごせないと思ったんです。違う職に就いて働き始めると、もうチャンスは訪れない。現役生活との切り替えというか……。『人生の休暇』を楽しむイメージでした」
胸に秘めた思いがあった。オリックス在籍時の2019年に参加したプエルトリコでのウインターリーグの記憶が、深く刻まれている。「人生を振り返ってみても、すごく大きなイベント。よりアメリカに行きたいと決定づけた瞬間でしたね」。現役を引退したT-岡田氏、阪神に移籍した漆原大晟投手と共に過ごした日々も忘れられない。
2023年を迎えると、米国に身を置いた。新婚で、子どもが生後3か月だったが「大変なことは十分承知でした。ただ(米国に)行くことを決めていたので、行かない選択肢がなかったです。妻には感謝の気持ちしかありません」と言葉を紡ぐ。
渡米当初は「無職でしたよ。学生ビザだったので」
覚悟を決めた挑戦だった。「無職でしたよ。学生ビザだったので……」。当時は語学学校に通う日々。「朝の8時から5時間みっちり英語の勉強をする1年でした」と笑って振り返る。「言葉が通じない、わからないこともたくさんありました。でも、プロの1軍で勝つとか、そのために練習するとかの大変さに比べたら……。この先の人生で考えても、あれ以上にしんどいと思うことはないと思います」。土にまみれた記念球は、野球選手として生きた“勲章”として実家に飾ってある。
努力を重ねても報われない現実を知っている。「あの頃を考えたら……。結果が出ない辛さやもどかしさは結構えぐいものがありました。それを考えると、この先にしんどい思いをすることはないんじゃないかなと。アメリカに来て、とくに感じたことなんですけど。何事も楽しんで生きていこうと思っています」。ロサンゼルスでは、かつての同僚だった山本由伸投手とも“再会”した。
現在はドジャースの情報を伝えるリポーターとして、フジテレビの報道番組「Live News イット!」に出演中。自身のYouTubeチャンネルでも、メジャーリーグ情報を伝えている。オリックスで同期入団だった宗佑磨内野手から「結構、みんなから『何してるの?』と聞かれるよ」と言われることもあるそうだが……。鈴木氏は「しっかりお仕事をもらえてよかったです。充実しています」と目を細める。苦悩が多かったプロ野球生活は、海を越えて微笑みに変わっている。
(真柴健 / Ken Mashiba)




