「何様じゃ!」高卒新人に浴びせられた怒声 広島加入で味わった“裏切り”「ひどい話」

広島などの4球団でプレーした長嶋清幸氏【写真:山口真司】
広島などの4球団でプレーした長嶋清幸氏【写真:山口真司】

元広島・長嶋清幸氏、パンチパーマを怒鳴られ丸刈りに

 広島、中日など4球団でプレーし、現在は「元祖台湾カレー犬山店」(愛知県犬山市)オーナーの長嶋清幸氏は、1979年オフにドラフト外で私立静岡県自動車工(現・静岡北)から広島に入団した。木下強三寮長に怒鳴られてのスタートだったという。問題視されたのは髪形。パンチパーマで決めていったら「何様じゃ!」と即、丸刈り指令を出されたものだが、これにはまさかの“裏切り”が関係していた。「ホント、ひどい話で……」と苦笑しながら真相を話した。

 1979年当時のドラフト会議は1球団4人以内の指名(1974~1977年と1981~1990年は6人以内)と決まっていた。それ以外に、指名されなかった選手を対象に直接交渉で獲得できるドラフト外制度(1990年で廃止)があり、ほとんどの球団が活用して戦力補充を行っていた。長嶋氏が入団した年の広島は、ドラフト指名組4人、ドラフト外組5人の計9選手が新たにカープのユニホームを着た。

 そのうち高校生は、ドラフト1位・片岡光宏投手(府中東)、同2位・永田利則内野手(広島商)、同3位・滝口光則投手(山形南)、同4位・山中潔捕手(PL学園)、そしてドラフト外の長嶋氏の5人だった。そんな同い年の同期の面々とともに入寮した。いよいよプロ生活が始まるという時。そこで木下寮長の怒声が響き渡った。

 目をつけられたのはビシッとパンチパーマをかけた長嶋氏のヘアスタイルだった。「『おらぁ鼻くそ!』って、その頃はいきなり鼻くそだからね。『なんじゃわれ、その頭は! 何様じゃ、こら! まだプロで飯食えんヤツが、どんな髪形しとんじゃ、ボケー! 今すぐ坊主にして来い!』と言われた。プロに入ってまた坊主かよって思ったね」。早速、理髪店行き。自動車工野球部の時と同様の丸刈りでの出直しとなった。

 念願の長髪でもあった。「(高校で)夏の大会が終わって、やっと長髪にできるって、アイパーをかけて、この際だからええわと思って(一部に)メッシュを入れて、そこだけ金髪にした。学校に行くときは、そこに黒チックを塗ってね」。だが、その髪形は長続きしなかった。「野球が終わって暇でしょうがないからパチンコを打っとったら、『出るかぁ』って肩を叩かれて『全然出ーへんわ』と言ってパッと見たら学校の先生だった。『おい、わかっとるやろな』って言われて……」。

入団発表時に、同期と決めた約束の髪形「はやっていた」

 髪を切って反省を示せということだと即座に理解した。「その先生はキレたら怖い人だった。で、『はい、切ってきまーす』と言って、ちょっと長めに切ったんだよ。そしたら『なめているのか!』と言われて、その次の日は五厘(刈り)にして『これでどうですか』と言ったら『お前にはそれが一番似合う』って。停学とかにはならなかった。まぁ、俺もいろいろあったし、当時の先生方には多大な迷惑をかけた。そんな先生方のおかげで今の俺があるんですけどね」。

 その時の五厘刈りから、再び髪を伸ばしてパンチパーマをかけて入寮。そこでも待っていたのが木下寮長からの丸刈り指令だったわけだが、これに関して長嶋氏は「ひどい話だったんだよねぇ」と苦笑する。「入団発表の時に(高校生で)同期のヤツに『次、全体で集まる時に髪形をどうする』って聞いたんだよ。そしたらみんな『そりゃあパーマをかけてくるよ』って言うから『そうか』って。あの頃、アイパーとかパンチパーマがはやっていたしね」。

 それなのにまさかの“集団裏切り”が起きた。「いざ初めて寮に行ったら、みんな短いスポーツ刈りで、パーマは俺一人だけだった」。もちろん、寮長に激怒されたのも一人だけ。「俺もキレて(同期に)言ったよ。『お前らなぁ、言うたこと、ちゃんとして来いやぁ! いったいどういうこっちゃ!』って。そしたらあいつらは『俺らもちゃんとパーマをかけたんだけど、親に“そんなんで行けるわけないやろ、髪を切ってこい”と言われたんだ』って……」。

 揃いも揃って似たような理由だったという。「『パーマをかけていたんだけど、昨日、散髪に行ったんだよ』とか言うから『知るか、そんなもん』って言ったけどね。まぁ、あの頃はケータイ電話もないし、お互いの電話番号も知らなかったしね……」。違った意味で最初から目立った形の何とも波乱含みの船出となったが、そんな同期たちとも切磋琢磨し、のちに長嶋氏は赤ヘルのレギュラー外野手となり、1984年の日本シリーズMVPに輝くなど結果を出していった。

 入寮当初の“パーマ事件”は笑い話として振り返っているし、すべて後腐れのない過去の出来事。髪形については「俺の人生の一番の後悔は(学生時代に)剃り込みを抜いたこと。抜かずに削っておけば、まだ生えていたのに……。青くなるのが嫌だったからそうしたんだけどね。中途半端に残っていると、汚いなぁ、お前、根性ないな、抜かんかいな、みたいな感じだったんでね。あの頃は年をとって薄くなるなんて思わないからさ」。そう言ってまた笑い飛ばした。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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