バイト掛け持ち…“Uber配達のチップ”が「嬉しかった」 大学で引退勧告から掴んだプロ

西武・奥村光一【写真提供:産経新聞社】
西武・奥村光一【写真提供:産経新聞社】

西武2年目、奥村光一が目指したプロ

 異色の経歴を持つ俊足外野手が、虎視眈々とチャンスを狙う。2年目の奥村光一外野手はここまで1軍出場がなく、3軍で調整を続けている。同じ外野を守るドラフト2位ルーキーの渡部聖弥外野手が存在感を示す中、「刺激になりますね。自分も頑張らなきゃなと思います」と汗を拭う。

「大学3年生の時、コロナの影響で寮が閉鎖になりました。再開する時は主力のAチームから戻れたんですけど、自分はCチーム扱いで1年生と一緒に呼ばれました。自分が戻った頃にはもうリーグ戦が始まっていて『これはダメだな』と思いました」

 東海大付属静岡翔洋高では主軸を担っていたが、進学した東海大では出場機会に恵まれなかった。監督からは「就職活動をしたほうがいい」と引退勧告を受けた。それでも、プロを目指す気持ちは変わらなかった。海外留学などを模索していたが、独立BCリーグの群馬ダイヤモンドペガサスの監督と共通の知人がいたことがきっかけで、トライアウトを受験した。

 コロナ禍で大学の授業もリモートで行われていたため、在学中の2021年2月に練習生として入団した。開幕後すぐに選手契約になり、1年目は40試合に出場。打率.372で首位打者を獲得した。とはいえ、決して恵まれているとは言い難い環境。大学4年時だった1年目こそ、実家からの仕送りがあったが、2年目からはオフシーズンに建設現場、フィットネスジム、コンビニエンスストア、ウーバーイーツの配達員など、さまざまなアルバイトを掛け持ちした。

「巨人の湯浅大選手の兄がチームメートで、実家の建設業を手伝わせていただき、建設現場の掃除をしていました。フィットネスは自分の勤務時間外にジムを無料で使わせてもらえるのでやっていました。コンビニのレジにもちょこちょこ入っていました。群馬は山が多いので、ウーバーの配達が大変でした。普通の自転車で配達していたんですけど、すごい山奥の家に配達に行って、帰りにスマホを見たらチップが入っていたことがあって。その時は本当に嬉しかったです」

指名漏れ→毎日ササミ&納豆生活で10キロ減量

 2年目は61試合に出場し打率.339をマーク。NPB2球団から調査書が届いた。西武の入団テストにも参加したが、指名はされなかった。「ずば抜けて良いものがなかったので。指名漏れしたことで方向性が見えました」。それから、スピードに磨きをかけることを決意した。毎日、鶏のササミと納豆を食べて10キロの減量に成功。3年目のシーズンに33盗塁で盗塁王に輝いた。再び参加した西武の入団テストでは走力で1位を獲得。最後の挑戦と決めていた2023年のドラフトで西武から育成6位指名を受け、念願だったNPBの切符を掴んだ。

「本当に嬉しくて。嬉しい気持ちしかなかったです」。苦労してたどり着いた舞台だからこそ、喜びもひとしおだった。さらに、1軍デビューはすぐにやってきた。2024年6月9日に支配下選手契約になり、その日の試合にスタメン出場。1年目は45試合に出場した。

「支配下を告げられたときは、もう何も考えられないっていうか、嬉しくて頭の中が真っ白で。でも『やってやろう』とは思っていました。最初は緊張しましたけど、打った時の声援とか球場の盛り上がりは『これで怪我して選手生命終わってもいいかな』って思えるくらいでした。全てを出して全力でプレーしました」

 今シーズンはこれまで1軍出場はなく、3軍での調整が続いている。「信頼される選手になって、必ずレギュラーを取りたいです。チームバッティングを求められていると思うので、意識してしっかりやりたいです」。BCリーグとの交流戦で群馬との対戦があると、がむしゃらに夢を追いかけた当時を思い出す。「野球を辞めようと思ったことはない。ずっとプロに行くんだっていう気持ちでやってきました」。強い気持ちで夢を叶えてきた25歳は、レギュラー獲りを目指す。

(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY