なぜ大谷翔平は23号で何度もうなずいたのか? 体現した長嶋茂雄さんからの“学び”

長嶋茂雄さんはNPB時代から打者・大谷を評価「20本くらいなら目をつぶってでも打てる」
【MLB】メッツ 4ー3 ドジャース(日本時間3日・ロサンゼルス)
ロサンゼルスの夜空へ勢いよく舞い上がった。ドジャース・大谷翔平は何度もうなずきながら一塁へ駆け出した。2点を追う7回2死、右腕クラニックから右越え23号ソロ。打球速度113.9マイル(約183.3キロ)、飛距離424フィート(約129.2メートル)、角度38度。打った瞬間、それと確信する特大のムーンショットだった。
試合開始2時間前、巨人・長嶋茂雄終身名誉監督が死去したとの一報がドジャースにも届いた。突然の訃報に、ベンチ裏にいた中島陽介トレーナーも「長嶋さん亡くなったんだって?」とベンチ裏から飛び出して日本メディアに確認。大谷が自身のインスタグラムを更新したのは、その1時間後だ。3月のカブスとの東京開幕シリーズ中に撮影した長嶋さんの写真などを載せ、「心よりご冥福をお祈りいたします」と追悼した。
大谷と長嶋さんは2016年12月にインタビュー対談で初対面。ミスターが「負けるチームにスーパースターは生まれない」と話すなどスーパースター論を語らった。53分間の対談の中盤。当時22歳の大谷へ「長嶋さんに聞いてみたいことはありますか?」と問いかけると、打撃の“悩み”を打ち明けた。
「打席での心構えというか、どういう気持ちで打席に立っているか。配球を考えるのか、自分がどういうスイングをしたいかを優先するのかを聞いてみたいです」
抜群の勝負強さで「ミスタープロ野球」と言われた男への質問。「大谷くんなら20本くらいなら目をつぶってでも打てる」と打者としても高く評価していた長嶋さんは、間髪を入れずに、こう答えた。
「来た球を打つ。そして走る。投手の中には内角、外角と嫌らしい投手がいるけど、大した問題ではない。あと1つ、僕の場合は初球から打つ。1ボールからも打ちにいく。2ボールだったら打たないかな。2ボールになれば打者の勝ちだよ。1ストライク2ボール、1ストライク3ボールの時は勝負。そのカウントでは、その投手が一番いい球を投げてくる。それを必ず打つ、と思っていましたね」
ミスターの回答はシンプルなようで、実践するのは難しい。この試合も大谷は初回先頭、3回2死とボールになるカーブに空振り三振。2点を追う5回2死一、二塁も1ストライク3ボールだったが、ボール球のチェンジアップを打たされて二ゴロに倒れた。だが、7回の23号ソロは初球の甘く入ったカーブを逃さず、9回1死一、三塁で放った同点犠飛もファーストストライクから振っていき、3球目のフォーシームを左翼フェンス手前まで運んだ。
なぜ、大谷は一塁へ駆け出す際に何度もうなずいたのか。試合後の囲み取材は行わず、真相は分からない。それでも……。9年前、ミスターから学んだ「僕の場合は初球から打つ」との打撃理論を体現する一発だったからこそ、あれだけ大きくうなずいたのかもしれない。
(小谷真弥 / Masaya Kotani)