オリ阿部翔太を変えた「15球」 岸田監督が託した思い…右腕が取り戻した“原点”

オリックス・阿部翔太【写真:小林靖】
オリックス・阿部翔太【写真:小林靖】

昨年は低迷、今季も開幕1軍逃す

「『俺らの仕事は、15球にどれだけ魂を込められるかやろ』と監督に言っていただきました。そっからですね、考え方が変わったのは」。32歳、阿部の顔から一瞬にして笑顔が消え、真剣な表情で打ち明けた。

 阿部は、酒田南高(山形)、成美大、日本生命から2020年ドラフト6位で入団。29歳の“オールドルーキー”は1年目こそ故障で1軍登板は4試合にとどまったが、2年目は44試合に登板、22ホールド、3セーブでリーグ連覇、日本一に大きく貢献した。

 2024年は度重なるコンディション不良で低迷、再起をかけて臨んだ5年目も、開幕1軍を逃し4月11日に初昇格。1試合目の楽天戦(楽天生命パーク)で、4‐0の6回から2番手として登板したが、3短長打を浴びて1点を与え1回持たずに降板した。2戦目は1イニングを無失点でしのいだが、3戦目の日本ハム戦(京セラドーム)で、代わりばなの初球を水谷瞬外野手に左翼席に運ばれ2失点を喫してしまった。

 岸田監督から話しかけられたのは、翌日の試合前のグラウンドだった。「監督も春先にアカンかったことが多かったそうで、『それでも気持ちを入れて試合で投げていったら、これや!というのが試合の中で出てくると思う』と言っていただきました」

 続けて岸田監督から出たのが「魂を込めた15球」だった。「いつも一生懸命に投げているのですが、フッと(気持ちが)抜けてしまうこともあるんです。でも、それをずっと頭に入れています」と阿部。

 岸田監督も履正社高(大阪)、東北福祉大、NTT西日本から入団した。大学、社会人出身という経歴のほか中継ぎ・抑えも経験しており、阿部と共通点が多い。岸田監督から「体が大きくない点も、僕と似ているとおっしゃっていただきました」という。

 阿部は以後、10試合連続して無失点。交流戦初戦の6月3日の広島戦(京セラドーム)では3番手で登板し、打者3人を「15球」で仕留めてみせた。

「今、僕のボールが変わったかといったら、正直、最初のころに点を取られた時と、変わってはいません。もちろん内容はよいのですが、気持ちの部分が大きいですね。ビビらずに勝負をできるようになりました」と明かす。リーグ戦の成績を大きく左右する交流戦。日頃、対戦することのない打者ばかりだが、1球1球に思いを込め、腕を振る。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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