2軍で4戦連続弾→昇格で浴びた“歓喜” オリ25歳が覚醒…逸材の転機はボロボロに流した涙

オリックス・杉澤龍、気合の5厘刈りが伸びても「今、それどころじゃないんです」
覚悟はもう、できていた。オリックスの杉澤龍外野手が5日、本拠地での広島戦に「6番・中堅」で今季初スタメン出場。初回2死満塁で迎えた第1打席、初球をレフトに弾き返して先制の2点適時二塁打を放った。8回の第4打席にもカウント3-2から右安打を放つなど、4打数2安打2打点。お立ち台でフラッシュライトを浴びた。
帽子を脱いで深々とお辞儀する姿に、全てが詰まっていた。好調を維持していた今季の春季キャンプ直後に、思い切って髪を剃った。「理由なんてありません。気合ですよ。大学時代から、調子が悪くなったら髪を剃ってました。キャンプ終わりのタイミングから少し悪い流れが続いていたので、1回、断ち切ろうと思って。そこで5厘刈りにしたんです。そこからは触ってません。帽子やヘルメットを被るスポーツですし、何も気にしてません。今、それどころじゃないんです」。
2軍戦で出場4試合連続本塁打を記録し、自信をつけて1軍昇格の切符を勝ち取った。「(4試合連続弾は)本塁打を打たないと負けで試合終了の場面が多かったんです。だから、1発目は(本塁打を)狙ってみました。打球もそうですけど、その時の打撃フォームが自分の理想にピッタリだったんです。完璧でした。その感覚を忘れないようにと心掛けていたら、結果的に4試合連続になっただけなんです」。今季初安打でプロ初打点を記録。二塁ベース上で強く握った拳は、本物だった。
今年1月上旬。ソフトバンク・栗原に“志願”した自主トレーニングで、ボロボロと涙を流した。「ものすごく厳しい練習でした。いつも体がパンパンになるまで鍛えて……。でも、自分でお願いしたので、やり切るしか選択肢はなかったんです」。ともに過ごした20日間で生まれ変わった。
栗原との出会いで“発想の転換”が起きた。「これまで、自分の(打撃の)形は正しいのかなと、ずっと疑問に思っていました。でも、打ててないんだから、正しくないよね……って感じで言ってもらって。これまでの野球人生で培った『僕の常識』を全て消し飛ばしてくれました」。少し伸びた黒髪に手を触れ、笑顔を見せる。
「だって、もう……。やるしかないじゃないですか。ないですよ、それ以外に」
杉澤は東北高、東北福祉大を経て2022年ドラフト4位でオリックスに入団。新人年の2023年は1軍で2試合に出場して、プロ初安打も放った。飛躍を誓った昨季は28試合に出場するも、打率.053と壁にぶつかった。2軍では打率.289をマーク。今オフは2年連続となるウインターリーグにも志願の参戦。誰よりもグラウンドに立ち続けた。
6月2日に25歳を迎え「新人の頃、1軍の試合に出ると足がプルプルの腕はガチガチでした。3年目になった今回(の昇格)は、その感覚はありません。楽しいです。すごく楽しめています」と、いつになく目を輝かせる。
変化は“発想の転換”にある。「今まではヒットを求め過ぎていて、正直、単打を狙っていました。その意識では結局のところ、窮屈になってしまって打ち損ねることもありました。今年は『そんな自分は嫌だな』と。その考え方は辞めようと思ったんです。これまでは弾いていただけ。今は押し込む感覚も大切にしています」。冷静に自身の思考を分析したから、今がある。
「思い切ってぶつかる覚悟はしていました。だって、もう……。やるしかないじゃないですか。ないですよ、それ以外に。チャンスをもらえるだけでありがたいので。今日より明日、明日よりその次。自分のやってきたことを信じて、ここから積み重ねていきたいなと思います」
人生初のお立ち台をターニングポイントに、未来を掴む。「レギュラーを取ります!」。あれこれ探しても、自分の本音にしか答えはない。行動が伴うから、発する言葉を信じてみたくなる。
(真柴健 / Ken Mashiba)
