キャリアワーストからの復権、リーグ2位の.750 躍動する2人の「西川」の“共通点”

西川龍馬は移籍1年目の昨季打率.258、出塁率.294はいずれもキャリアワースト
オリックスの西川龍馬外野手がパ・リーグの安打数で1位、西武の西川愛也外野手が同2位と、同じ「西川」という名字を持つ2人の選手がランキングの上位を占めている。両選手ともに主要な打撃タイトルを獲得した経験はないだけに、今後の活躍次第では初戴冠の可能性も大いにあるはずだ。今回は、西川龍馬と西川愛也がこれまで記録してきた指標に基づく、選手としての特徴について紹介。今季の両選手がどういった部分で進化を遂げているのかについても確認し、残るシーズンでのさらなる活躍にも期待を寄せたい。(成績は5月30日の試合終了時点)
西川龍馬は通算打率.293に対して通算出塁率は.336で、打率と出塁率の差を示す「IsoD」はキャリア平均で.043と控えめな数字だ。積極的なバッティングスタイルによってプロの舞台で結果を残してきたことが、これらの数字にも示されている。四球を三振で割って求めるIsoDと同じく選球眼を示す指標である「BB/K」に関しても、キャリア平均で.402と決して高いとは言えない水準にとどまっている。オリックスに移籍した2024年のBB/Kは.278、2025年は同.172とさらに数字が下がっており、パ・リーグではこれまで以上に三振を恐れない積極性を見せていることがわかる。
昨季の打率.258、出塁率.294はいずれもキャリアワーストの数字で、出塁率が.300を下回ったのは9シーズン目にして初めてだった。さらに、長打率も.347と大きく低下し、OPSも.641とキャリア初の.600台に沈むなど、打者としての生産性も低下を余儀なくされていた。ただし、本塁打を除くインプレーとなった打球が安打になった割合を表す「BABIP」を確認してみると、また違った側面が見えてくる。BABIPは比較的運に左右される要素が多い指標であると考えられており、一般的な基準値は.300とされている。
西川龍馬は俊足の左打者というBABIPの面で有利となりやすい特性を持ち、キャリア通算の数字も.329と基準値を大きく上回っている。しかし、2024年のBABIPは.303と西川龍馬選手のキャリアではワーストの値で、運に恵まれない側面があったことが示唆されている。今季のBABIPは.340とキャリア平均を上回る数字となっており、それに伴い打率も.294に上昇。それだけでなく、長打率.401、OPS.721と打者としての生産性も広島時代に近い水準まで向上しており、さまざまな意味で本来の実力を示すシーズンとなりつつある。
長打率から単打の影響を省いた、いわば“真の長打率”を示すとされる「ISO」に関しても、昨季は.089とキャリアワーストの数値となっていたが、今季は.107まで向上。年間16本塁打を放った2019年をはじめ、広島時代には2桁本塁打を記録したシーズンが3度存在しただけに、今後は長打の面でもさらなる本領発揮に期待したいところだ。
西川愛也は野手NPBワーストの62打席無安打と苦しんだことも
次に、西川愛也。プロ3年目の2020年に1軍デビューしてプロ初安打を記録したが、その後は2年続けてノーヒットに終わり、野手としてはNPBワーストの62打席連続無安打と苦しんだ。2023年に記録をストップさせて以降は徐々に出場機会を伸ばしていったが、2023年から2年続けて打率.227と、依然として確実性には課題を残していた。こうした西川愛也選手の苦戦に関しても、BABIPと無関係とは考えづらい面がある。俊足の左打者である西川愛也選手は、一般的にBABIPの面では有利になりやすいタイプの選手とされている。それにもかかわらず、西川愛也選手のキャリア通算のBABIPは.251と、基準値の.300を大きく下回っている。
シーズン別の数字に関しても、2023年が.259、2024年が.258と、1軍定着以降の2シーズンはいずれも非常に運が悪かったことが示されている。だが、今季のBABIPは.295と基準値に近い数字まで向上しており、それに伴って打率も.277と顕著な改善を見せている。
またキャリア通算のIsoDは.047と控えめな水準となっており、西川龍馬と同じく、好球必打の打撃スタイルを取っていることがわかる。積極的な打者にとっては、前に飛んだ打球がヒットになるか否かが成績面でも非常に重要なウエイトを占める。両選手のBABIPが向上したことが好成績に直結しているのは、いわば当然の帰結といえよう。一方で、BB/Kに関してはキャリア平均の数字が.368とやや低くなっていたが、2025年のBB/Kはリーグ2位の.750と劇的な改善を見せている。今季はIsoDも.063とキャリア平均の数字を大きく上回っており、選球眼とストライクゾーンの管理能力が大きく高まっていることが示されている。
さらに、今季は長打率.400、ISO.123といずれもキャリア平均の数字を大きく上回っており、バットコントロールに加えてパンチ力も向上している。BABIPの改善だけでなく、選球眼や長打力といったセイバーメトリクスで重視される指標においても進化を遂げている西川愛也が、今後さらなる好成績を残してくれる可能性は大いにあるはずだ。
主力としてセ・リーグ3連覇に貢献した広島時代の姿に近づきつつある西川龍馬と、選球眼の改善によって打者としての進化を遂げつつある西川愛也。両選手ともに積極的な打撃スタイルが特徴で、それによってBABIPの向上が安打数の増加に直結している点も含めて、名字以外にも少なからず共通点が見受けられることも興味深い要素となっている。チャンスメーカーとして上位争いを繰り広げるチームをけん引する両選手は、今後もシュアなバッティングを続けて自身初の打撃タイトルを手にすることができるか。パ・リーグを彩る2人の「西川」が攻守にわたって披露する溌剌としたプレーに、残るシーズンもぜひ注目してみてはいかがだろうか。
(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)