「メチャクチャ腹が立った」 強豪校から誘いも…元虎戦士が受けた“屈辱の宣告”

元阪神・狩野恵輔氏【写真:山口真司】
元阪神・狩野恵輔氏【写真:山口真司】

元阪神・狩野恵輔氏、中学の軟式野球部では実績残せず

 絶対見返してやる! 2009年に阪神でレギュラー捕手も務めた狩野恵輔氏(野球評論家)は1998年、群馬県立前橋工に進学した。1996年と1997年に2年連続夏の甲子園ベスト4の野球強豪校だ。知人を通じての“縁”があってのことだったが、入学するに当たって「メチャクチャ腹が立っていた」と話す。理由は前橋工関係者に「3年間補欠の可能性が高いけど」と言われたこと。それで闘争心に火がついたという。

 2000年のドラフト3位で前橋工から阪神に入団する狩野氏だが、群馬・赤城村立北中(現・渋川市立赤城北中)軟式野球部時代に実績を残しておらず、当初は「どこの高校からも誘いは一つもなかった」という。「僕自身は(私立の)桐生第一に行きたいなって思っていましたけど、親のことを考えたら、家から近くの公立高校がいいのかなとも思っていました。そんな時にたまたま近所のおっちゃんが、前橋工のスカウトっぽい人と同級生かなんかだったんですよ」。

 そこから話が動き出した。「おっちゃんは、その人に『近くにいい選手がいないか』と聞かれて『赤城北中で一番うまいのはこいつじゃないか』って僕の名前を出したそうです。それで1回話したいということになって行ったんですよ。『前橋工で野球をやる気はないか』と聞かれたので、“うわ、スカウトや”って思うじゃないですか、そしたら『たぶん、3年間補欠の可能性が高いけどな』って言われたんです」。

 狩野氏はこう説明する。「その人は全然スカウトじゃなかったんです。ただ人数を集めるために、その地区でいい子を獲るためだけに来ていた人だったんですよ。中学がどうとかではなく、赤城北中で一番いい子は誰、じゃあ獲っておこうくらいの。たぶん、そんな感じだったんです。その時は普通に話を聞いて帰りましたけど『3年間補欠』って言われてメチャクチャ、腹が立ちました。でも僕は何か変わっていたんでしょうね。それで前橋工に行ったろうと思ったんです」。

 闘争心に火がついた。「負けん気も強かったんだと思います。絶対見返してやろうという気持ちになったんですよ。“無理”と言われたから、絶対にレギュラーになってやるってね」。そして、こう付け加えた。「だから、ある意味、そのスカウトっぽい人にも感謝ですよね。あの時にそうやって言ってくれたから、僕はカチンと来て、行く気になったのでね」。前橋工進学がプロへの道にもつながっただけに、これも狩野氏の野球人生における、一つの大きなポイントだった。

夏の甲子園2年連続ベスト4の前橋工に進学

「前橋工は僕が入学する前の年(1997年)とその前の年(1996年)で2年連続(夏の)甲子園ベスト4の強い高校だったので、親も心配だったと思います。そりゃあ、そうですよね。中学では真面目に野球に取り組んでいませんでしたからね」。その後もスンナリはいかなかった。「素行もそんなによくなかったし、中学の先生に『前橋工に行かせてください』と言ったら『今までの態度を考えて』って『あなたは推薦できません』と言われました」。

 それでも前橋工へ傾いた思いを貫いた。「一般で受験して合格したんですけど、推薦で入れず、前橋工の人もびっくりだったんじゃないですかね。『お前、そこまでか』みたいな」と狩野氏は笑みを浮かべながら話したが、大変だったのは、入学してからだった。「野球部に1年生は40人入ったんですけど、そのうち一般生は僕を含めて4人だけ。あとは全員推薦で入っていたんです。中学の時に県大会や全国大会に行ったヤツもいて……」。

 やはり野球強豪校に加わった新入生はツワモノぞろいだった。「1年生はアップとか完全に2年生、3年生とは別。サブグラウンドで走れって。そこで声出しの仕方とかも教えてもらうんですけど、僕は1年生40人の中の最後方で走っていました。後ろの4人が一般生。前の方は(中学で)実績のあるヤツとかなんです。みんな、我こそはって感じで前の方に行くんですよ。僕は一般生のヤツと『何だこれ』『どうする』なんて話していました」。

 すべてに戸惑ったという。「監督に『おい』って言われたら、みんなが『はい!』って行くじゃないですか。そういうのもよくわからなかった。中学の時に厳しくやっていなかったので。『そんなふうにしなきゃいけないんだ』みたいな……。一応『はい!』は言いましたけど、それも見よう見まねでした」。もちろん、野球のレベルも高かった。「甲子園に出たチームですし、2年生、3年生はめちゃくちゃスゲーなって思いましたよ」。

 1年生の中でも“後方部隊”からのスタートになったが、狩野氏はそこからチャンスをつかんで這い上がっていく。そのパワーの源の一つが、高校進学先を決める時の「絶対見返してやる!」の気持ちでもあったのだろう。困惑の“船出”は、同時に一般生からの“大逆転ストーリー”の幕開け。1年夏にはベンチ入りも果たすことになる。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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