選球眼はワースト3位も…10年目で打撃開眼のワケ 「守備の名手」が切り開いた新境地

楽天・村林一輝【写真:古川剛伊】
楽天・村林一輝【写真:古川剛伊】

楽天・村林は5月終了時点で打率リーグトップだった

 楽天の村林一輝内野手が、5月を終えた時点でリーグ1位の打率を記録している。今季から宗山塁内野手の加入によってショートからサードへとポジションを移したものの、守備の負担が軽減されたこともあってか打撃が開花。卓越した守備力が高く評価されてきた村林にとって、2025年はまさに新境地を開拓するシーズンとなっている。今回はこれまで記録してきた指標をもとにした、打者としての特徴を紹介。それに加えて、今季指標の面でどのような変化が生じているのかを確認し、抜群のハイアベレージを残している理由について迫っていきたい。(成績は6月1日の試合終了時点)

 通算打率.245に対して通算出塁率は.283であり、打率と出塁率の差を求める「IsoD」は.037と極端に低い数字。非常に積極的な打撃スタイルを持ち味としていることが、これらの数字からも伝わってくる。とりわけ、2024年のIsoDは.029、2025年は同.025と、直近2年間の成績はキャリア平均をさらに下回る値となっている。リーグ全体で見ても、今季記録しているIsoDは規定打席到達者の中でワースト2位タイの数字となっており、パ・リーグの中でもトップクラスの積極性を持つ打者であることが示されている。

 また、四球を三振で割って表す、打者の選球眼を表す指標の一つである「BB/K」に関しても、キャリア平均で.264と低い水準にとどまっている。この指標に関してもIsoDと同じく、2024年が.231、2025年が.194と、直近2シーズンはキャリア平均以上に低い数字となっている。リーグ全体での順位に関してもIsoDと同様の傾向が出ており、今季の村林が記録したBB/Kは規定打席到達者の中でワースト3位の値となっている。積極性を持ち味とする代わりにボールの見極めを大きな課題としていることが、選球眼にまつわる各種の指標から見て取れる。

 長打率に関してもキャリア通算で.316と控えめな数字だが、2025年の長打率は.403と顕著な向上を見せている。その影響もあって、今季のOPSは.759とキャリア平均の数字(.599)を大きく上回っており、わずか1試合の出場だった2017年を除けば初となる7割台に到達。打者としての価値を大きく向上させ、名実ともに主力打者の仲間入りを果たしている。一方で、長打率から単打の影響を除いた、いわば“真の長打力”を示すとされる「ISO」という指標に関しては、2024年と2025年の数字がいずれも.071と横ばいだ。打者としての生産性が高まっていることはOPSにも示されているだけに、安打数の増加が各種の成績向上に直結していると考えるのが自然だろう。

「BABIP」が基準値を上回ったのは1軍で出場機会を得た9シーズンで3度のみ

 2018年から2022年まで5年連続で打率1割台以下と、キャリア序盤においては打撃面で苦戦を強いられていた。その原因の一端は、本塁打を除くインプレーとなった打球が安打になった割合を表す「BABIP」について確認することによって浮かび上がってくる。BABIPは運に左右される側面が大きい指標であると考えられており、一般的には.300が基準値とされている。しかし、村林のキャリア平均のBABIPは.291と基準値を下回る数字となっており、これまで運に恵まれなかった側面があることが示唆されている。

 シーズン別の数字に関しても、1軍で出場機会を得た9シーズンの中で、基準値の.300を上回っていたのは、2017年、2023年、2025年の3度のみ。2017年はわずか1試合と極めて出場機会が少なかったことを鑑みれば、基準値を超える数字を残したのは実質的に2シーズンのみだったとも考えられる。そんな中で、村林が今季記録しているBABIPは.405と非常に高くなっており、過去のキャリアにおける傾向とは大きく変化している。村林のような積極的な打撃スタイルを取る打者にとっては、フェアゾーンに飛んだ打球が安打になるか否かは打撃成績を大きく左右する要素となるだけに、打率が向上する大きな要因となっている可能性は高そうだ。

 2024年にBABIP.278と運に恵まれないシーズンを送っていたが、同年に打率.241という数字を残した点も注目に値する。投高打低の環境にあって、運に恵まれずとも守備の負担が大きなポジションでレギュラーとして起用するに足る打撃成績を残せるだけの素地を備えていたからこそ、今季の好成績が生みだされていることは間違いなさそうだ。キャリアを通じて運に恵まれなかった点と、村林の積極的な打撃スタイルが相互に作用したこともあり、2023年までは打撃面で確実性を欠くシーズンが続いていた。しかし、今季はBABIPの向上が持ち前の積極性とかみ合ったことによって、打撃ランキングのトップに立つほどの大きな飛躍を遂げている。

 BABIPは長い目で見ると一定の値に収束していく傾向にあるが、村林はレギュラーとして培ってきた経験を活かしてこのまま高打率をキープできるか。10年目にして打撃面で開眼を果たしつつある守備の名手の活躍には、これからより多くの注目が集まりそうだ。

(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト

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