岸田監督の哲学“15球に魂” 自らの経験が生きた「たった50回の仕事」の意味

先発とブルペンの両方を経験した指揮官が語る
オリックスの岸田護監督が、自身の経験を基にマウンドでの「極意」を投手陣に伝授している。「中継ぎは、よく投げても年間144試合の1/3、たった50試合の仕事です。そのなかで(1試合に投げる)15球に魂を込めないと、もったいないです」。シーズン序盤、結果を残せなかった中継ぎの阿部翔太投手を目覚めさせた「15球に魂を込めろ」の真意を、岸田監督は熱い口調で説明した。
岸田監督は、履正社高(大阪)、東北福祉大、NTT関西から2005年大学生・社会人ドラフト3位で入団した。4年目に先発として初の10勝(4敗)を挙げ、2014年にはセットアッパーとしてチームのリーグ2位に貢献した。2019年に現役引退するまで、「先発」「中継ぎ」「抑え」としてオリックスの投手陣を支えてきた。
「15球」は、自身の経験から導き出した考えだ。中継ぎは、年間50試合も登板すれば高く評価される仕事。救援したマウンドで、1イニングを打者一人に「5球」で抑えれば役目を果たせるというわけだ。
ただ、マウンドでの「15球」のために、ブルペンで肩を作るなどの準備を含めると、1試合で投げる球数はもっと多くなる。試合展開によっては何度か準備をすることもあるし、準備しただけで出番がないことが数日続くこともある。過酷な仕事だけに、日の当たるマウンドでは輝いてほしいと岸田監督は思うのだろう。
「365日のうち、50日だけが仕事。あとは練習が仕事なんです。だから(状態を上げるために)がむしゃらに腕を振る、振れるという練習を毎日しなければいけないっていうことです。1球1球、楽しくない仕事になりますが、そのためにも気持ちが大事になると思います」
こうした考えは、誰かからアドバイスされたものではないという。「まあ、常日頃、そう考えてやっていましたからね」
白球にかける思いは募る。「それを毎日やったらしんどいんですけど。でも、たった50回の仕事ですからね。たった50回の仕事をするというところに意味があるんです」
スカウトを含めた編成方針と、定評のある若手育成で盤石の投手陣を誇りリーグ3連覇、日本一に輝いたオリックス。相次ぐ故障者の離脱などで中継ぎ陣にほころびが見え始めた岸田監督の就任1年目。魂をこめた「15球」でブルペン陣の活路を開きたい。
〇北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者一期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)
