大谷翔平の復帰に“エビデンス”なし ド軍日本人OBが「革新的」と驚いた独自の道

パドレス戦に先発したドジャース・大谷翔平【写真:Getty Images】
パドレス戦に先発したドジャース・大谷翔平【写真:Getty Images】

日米球界で741試合に投げた斎藤隆氏が解説する「エビデンスのないプロセス」

 ドジャースの大谷翔平投手がまた、世界を驚かせた。投打の二刀流スーパースターとして球史を塗り替えてきたことはご存じの通り。さらに、打者に専念した昨季はMLB史上初となる50本塁打&50盗塁を達成したが、今度は前例のない投手復帰の道を歩み始めた。16日(日本時間17日)に本拠地でのパドレス戦で663日ぶりのマウンドに上がり、1回を2安打1失点とした右腕の姿に、ドジャースOBの斎藤隆氏は「まさに唯一無二。独自の感覚がすごすぎる」と驚きの色を隠さない。

 トミー・ジョン手術を受けた投手は通常、平地でのキャッチボール、傾斜のある場所でのキャッチボール、ブルペン投球、実戦形式のライブBP登板、マイナーでのリハビリ登板と段階を踏んだ後、メジャーでの復帰登板に臨む。先発投手であれば、ライブBPとリハビリ登板を重ねる間に投球数を増やし、80〜90球、あるいは3〜5イニングは投げられるまで作り上げていく。

 だが、今回の大谷は10日(同11日)に3度目のライブBPに臨み、その6日後にメジャー復帰を果たした。全ての野球ファンが注目する登板を前に取材に応じたドジャースのデーブ・ロバーツ監督は、早期復帰に至るまでの大谷とのやりとりについて「1、2イニングであれば、もう(ライブBPを)経験済みなんだから(メジャーの試合で)投げてもいい? という感じだった」と明かしている。

今までの枠にハマらない大谷が歩むリハビリの道

 日米23年の現役生活で741試合のマウンドに上がった斎藤氏は「この感覚はなかなか通常のピッチャーでは持てないもの。二刀流であるからこその考え方だと思います」と話す。その理由はなぜか?

「投手としてリハビリをしている間も、大谷選手は打者としてメジャーの試合に出場し続けてきた。通常のリハビリはチームから離れて別メニューで行われるので、どうしても試合でしか味わえない気分の高まりやプレッシャーから遠ざかってしまいます。なので、ライブBPやマイナーのリハビリ登板は心の準備を整えていく側面もある。でも、大谷選手は打者として超一流の活躍をしながらリハビリを続けてきたので、その必要はなかったのかもしれません。今までの“リハビリ”の枠にはハマらないリハビリなのでしょう」

 今でこそトミー・ジョン手術は珍しくなくなったが、複数回受けて復帰した例は多くない。ましてや二刀流だ。「文字通り、エビデンスのない、唯一無二の復帰プロセスを歩んでいる」と斎藤氏。メジャーという“本番環境”の中で、投手としての状態を仕上げていこうという感覚は「まさに革新的」とした。

ノーワインドアップへの変化で「パワーピッチャー感が増した」

 結果として、2023年8月23日(同24日)以来となる2年ぶりのマウンドで、最速100.2マイル(約161.2キロ)を記録するなど超人ぶりを発揮した。復帰初戦とは思えない力強い投球を見た斎藤氏は「以前よりパワーピッチャー感が増しましたね」と話す。

 大谷は今季からノーワインドアップに挑戦。その理由について、本人は「自分の中で常に変化を求めていきたい」と話している。一般的に、ノーワインドアップは投球にリズム感が生まれ、制球力が高まる効果があるという。年齢を重ねる中、投手として息の長い活躍をするためには制球力は欠かせない。斎藤氏は「大谷もパワーピッチャーを卒業して制球力を身につけるための変化だったのかもしれませんが、パワーにより磨きがかかって見えた。制球は多少ばらつきがありましたが、久しぶりに先発マウンドに立った力みでしょう。回数を重ねれば、しっかりまとまってくるはずです」と太鼓判を押す。

 ブランドン・ゴームズGMはポストシーズン進出を見据えながら「10月に最高の状態で投げてくれることが大事。そこまでどうやって仕上げていくかは、その都度、状態を見ながら相談して決めていく」と話し、大谷とともに新たなリハビリの形を見つけていく覚悟を見せている。二刀流スターは試合での活躍だけではなく、あらゆる面で「革新」の道を歩み続けていく。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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