大谷翔平、復活登板で見せた“両極端” 専門家も驚き隠せず「これまで見たことがない」

17日に復帰登板を果たしたドジャース・大谷翔平【写真:ロイター】
17日に復帰登板を果たしたドジャース・大谷翔平【写真:ロイター】

NPB通算2038安打の野球評論家・新井宏昌氏が分析

【MLB】ドジャース 6ー3 パドレス(日本時間17日・ロサンゼルス)

 ドジャースの大谷翔平投手は16日(日本時間17日)、本拠地でのパドレス戦に先発登板。エンズルス時代の2023年8月23日・レッズ戦以来、右肘の手術を挟んで663日ぶりのマウンドに上がり、1回2安打1失点だった。現役時代にNPB通算2038安打を放ち、MLBにも造詣が深い野球評論家・新井宏昌氏が、長かったインターバルの前と後の“投手・大谷”の違いを指摘する。

「大谷翔平の両極端の表情を見ることができた試合だったと思います。マウンドに上がる直前には、ベンチでこれまであまり見たことがないような、緊張した表情をしていましたし、逆に3回の打席で同点タイムリーを放った時には、最近あまり見せていなかた明るい笑顔を浮かべていました」。新井氏は大谷の復帰登板の様子を、そう表現した。

 球威は手術やブランクの影響を全く感じさせなかった。初回無死一塁で、2番ルイス・アラエス内野手への初球が暴投になるなど、指に引っ掛かりすぎるボールもあったが、そのアラエスへの4球目は、この日最速の100.2マイル(約161.2キロ)を計測。無死一、二塁で3番マニー・マチャド内野手に浅めの中犠飛を許し、三塁走者に微妙なタイミングながら本塁を奪われ1点を失ったが、新井氏は「非常に強いボールを投げていました。指に引っ掛かることは、手術前にもよくありました。もちろんライブBPとは違い、久しぶりの“本番”の試合ですから、多少力んだとしても無理はない。むしろ、よく制御できていた方ではないでしょうか」と評した。

 ただ、ブランク前と比べ変化も見られた。わかりやすいのは、2023年まで常にセットポジションだった投球フォームが、いったん左足を引いてから始動するノーワインドアップに変わったことだ。今春のキャンプから練習していた。「ストレート系に勢いをつけようとしているのかもしれませんね。セットポジションだと、フォーム自体が少しおとなしい感じになりますから」と新井氏は大谷の意図を推察する。

「100マイルの速球と鋭い変化球があっても対応されるのがメジャーリーグ」

 しかし投球フォームの変更以上に、新井氏にとって印象的だったのは「シンカーの多投」だった。この日投じた28球の内訳は、ストレートが12球、スライダーが8球、スプリットが1球、150キロ台のスピードを計測しつつシュートしながら落ちるシンカーが7球もあった。

 新井氏は「手術前の大谷はフォーシーム、スライダー、曲がりの大きいスイーパー主体で、相手打者を追い込んだ時や得点圏に走者を背負った時に、スプリットが少し多くなるくらいです。1イニングにあれだけ多くのシンカーを投げたのは、過去に見た覚えがありません」と指摘するのだ。

 シンカーは相手打者がストレートと認識して振り出したところで、微妙に芯を外されゴロを打たされることの多い球種だ。特に右打者の内角に食い込み、詰まらせるにはもってこい。2死二塁で右打者のサンダー・ボガーツ内野手が、カウント1-1から三ゴロに打ち取られた153キロの球もそれだった。

 新井氏は「大谷は新たなスタイルとして、シンカーを増やしていこうという意図があり、復帰登板で試してみたのではないでしょうか」と見る。「武器は多いに越したことはありません。大谷のように100マイル(約160キロ)前後のフォーシームや鋭い変化球を持っていても、球種を絞られれば対応されてしまうのが、メジャーリーグの世界ですから」と背景を説明する。

 この22か月間、大谷は指名打者として打って走って獅子奮迅の働きをしながら、投手としてもリハビリを進めていただけではなかった。一段と進化した姿で、メジャーのマウンドに帰ってきたようだ。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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