名将・小倉全由氏の後継者…日大三・三木監督の“哲学” 「監督」ではなく「さん」付けで呼ぶワケ

「三木さん」と呼ぶ選手たち 距離感の近さが生む結束力
フリーアナウンサーの豊嶋彬です。10年以上、東京の高校野球の取材を続けています。6月初旬の雨の日、日大三高の練習場を訪れました。歴代甲子園出場の写真や盾がズラリと並ぶ部屋を通り、室内練習場へ向かうと、そこには私の想像とは全く違う光景が広がっていました。2001年の全国制覇、2018年の金足農戦(秋田)での激闘――これまで甲子園で何度も印象的な戦いを見せてきた名門校の新たな一面を目の当たりにしたのです。
雨で屋外練習ができないこの日、寮直結の室内練習場でアップから始まった練習。大きな掛け声ではなく、リラックスした雰囲気の中、選手たちは約1時間かけてじっくりとメニューをこなしていきます。汗をかきながらも、どこか楽しそうな表情を浮かべる選手たち。その間、三木監督は一人ひとりに声をかけ続けます。
印象的だったのは三木監督の選手との接し方でした。雑談のように話しかけたり、軽いイジリを交えたりと、監督と選手という関係性を超えた距離感の近さを感じました。キャッチボール、トスバッティング、そしてノックへと続く練習中も、この温かいコミュニケーションは続きます。指導を加えながらも、まるで兄貴分のような存在として選手たちに接している姿が印象的でした。

教え子たちへの特別な思い
驚いたのはノックの場面です。選手がノックを受ける前に「さぁ、来い!」とかではなく、「三木さん」と名前を呼ぶのです。監督ではなく「さん」付けで呼ぶ全員の姿に、この距離感の近さを改めて実感しました。「やはりコミュニケーションを取り合うことが大事だと考えている。いつもこんな感じでやり取りがあり、うちにとっては自然なことです」と三木監督は語ります。
今の3年生は、三木監督が監督就任してから初めて1年生から指導している代です。「今年の3年生の選手には思い入れがある」という言葉からも、この学年への特別な想いが伝わってきます。監督としても初出場を果たした甲子園について聞くと、「最高の舞台、もう竜宮城みたいな場所」と目を輝かせます。「勝ったらもちろん素晴らしいし、たとえ負けたとしても、それでもそこは甲子園だ」。
夏の東京大会に向けては「甲子園は監督が連れて行くというよりも、選手たちが自分たちでつかみにいくもの。監督としては、その選手たちの邪魔だけはしたくない」と語る三木監督。この言葉からも、選手を信頼し、彼らの自主性を重んじる指導方針が見えてきます。練習後の自主練習でも、選手たちの楽しそうな声が響き、野球への愛情があふれていました。
全国制覇も経験している強豪校への勝手な思い込みがありました。厳しい言葉が飛び交い、上下関係がはっきりした練習風景を想像していましたが、実際は全く違うものでした。もちろん場面場面でしっかりと気を引き締めるところは締める。そういった指導と選手の意識があるからこそ、この良い雰囲気が成立しているのでしょう。
お互いにコミュニケーションを取り合い、信頼関係をしっかり築いているからこそ、夏をともに戦えるチームになる。この夏はまた新たな目線で、日大三の躍動する姿を期待感とともに見させていただきたいと思います。兄貴分監督と選手たちが築いた特別な絆が、どんな夏の物語を紡ぐのか――。今から楽しみでなりません。
【筆者プロフィール】
○豊嶋彬(とよしまあきら)1983年7月16日生まれ。フリーアナウンサー、スポーツMC。2016年から高校野球の取材活動を始め、JCOM「夏の高校野球東西東京大会ダイジェスト」のMC。スポーツMCとしての活動のほか、テレビ番組MCなど幅広く活動中。
◇10年後の君へ ~Tokyo高校野球物語~
JCOMでは6月28日(土)午後6時から東京の高校野球の裏側に迫る特別番組「10年後の君へ ~Tokyo高校野球物語~」を放送。東亜学園や日大三、帝京の強豪の密着からチームを支えるマネジャーや応援に欠かせない吹奏楽部や地域の人々など活動も紹介。東京都内のJ:COMサービスエリアで放送予定。(※東京都町田市、稲城市の初回放送は6/29(日)午後9時)
(豊嶋彬 / Akira Toyoshima)
