イップス克服で151キロ 元ロッテ右腕が引退から5年後に計測…複数オファー固辞のワケ

トライアウトに参加した元ロッテ・島孝明氏【写真提供:産経新聞社】
トライアウトに参加した元ロッテ・島孝明氏【写真提供:産経新聞社】

元ロッテの島孝明さん、伝えたかったファンへの感謝の思い

 元ロッテの島孝明さんは現役引退後に大学に進学し、現在は慶大の大学院でイップス研究に取り組んでいる。昨年のトライアウト受験で話題にもなったかつて高校日本代表右腕は、NPB球団はなかったが複数からオファーがあったことを告白。熟考の末、学業を優先したのは、自分にしかできないことがあるという強い使命感からだった。

 昨年11月14日、ZOZOマリンスタジアムで行われた12球団合同トライアウト。引退から5年の時を経て、島さんは背番号40のロッテのユニホーム姿で再びマウンドに立った。最速151キロを記録するなど、150キロ台を連発。かつてイップスに苦しんだ右腕が、研究で培った理論を実践で証明する感動的な場面となった。

「練習では140キロぐらいでしたから、151キロは自分も驚きでした。緊張感がちょうどいいバランスで、パフォーマンスが出やすい状態だったと思います。ファンの方に投げられるようになったんだよということを伝えたかったんです」

 トライアウト後、島さんのもとには2つのオファーが舞い込んだ。ルートインBC独立リーグの群馬ダイヤモンドペガサスと、社会人クラブチームからの誘いだった。しかし、島さんは学業を優先し、両方のオファーを丁重に断った。

イップスに悩む選手から直接連絡も

「もしNPBからオファーがあったら、大学を休学してでも復帰を考えていましたが……。ただ、どちらがより自分のためになるかを考えて決断しました」

 島さんは2019年オフに育成契約の打診を受けるも引退を決断。その後はNPBの制度を使用し、国学院大へ進学。現在は慶大の大学院に進み、イップス研究に没頭している。自身の経験を基に「どこに意識を向けるか」「感覚の改善方法」について科学的アプローチで解明を試みる。

 イップスに悩む選手から連絡をもらうこともある。「一つの方法として、自分の研究が役立てばと思っています」。来年3月の卒業後は、アナリストとして野球界に関わることも視野に入れている。かつて背番号40を背負った右腕は、今度は研究者として野球界に恩返しをしていく。

 現役復帰のチャンスをくれた2チームの他に、オイシックス新潟アルビレックスBCからはアナリストとしてのオファーを受けており、受諾。研究者としての新たな道を歩んでいる。社会人野球侍ジャパンでも分析担当として、チームに貢献した時期もあった。21歳の若さで現役引退しても、可能性は無限大だ。

 プロ野球のユニホームを着ることだけが野球人生ではない。その挑戦は、多くの人に勇気と希望を与え続けている。

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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