ベンチで見た45年ぶりの屈辱 甲子園では頭真っ白も…中日ドラ1が唯一忘れぬ“1つのミス”

元中日・荒木雅博氏の礎となった熊本工での猛練習
大舞台の雰囲気にのまれた……。元中日レジェンド内野手の荒木雅博氏(野球評論家)は熊本県立熊本工で1993年の1年秋から二塁のレギュラーポジションを掴んだ。初戦敗退に終わったものの、1994年春の選抜にも出場した。ところが、その後、不調に陥り、同年夏の熊本大会は出番なし。無念の結果だったが「苦しくはなかったんですよ」と言う。「たぶん、自分の性格なんでしょうねぇ」と振り返った。
「高校は、野球をやるんだったら熊本工1択だった」という荒木氏は、中3夏以降の猛勉強の末、合格を勝ち取った。志望した当時は教師から成績的に「無理だよ」と言われながら、そこから巻き返しての“逆転劇”。「受験の時は受かると思っていました」。やればできる。この時に身につけた“継続力”は,その後の野球人生にもプラスになった。熊本工でも練習を積み重ねて、技術力をアップさせていった。
自宅から片道13キロの自転車通学。「行きは40分くらい。帰りは練習終わりですし、上りが多いですし、1時間くらい。ダラダラ上って、最終的にはちょっと下って、また上って、下ってくらいの感じなのでね」。それが毎日のいいトレーニングにもなったという。「家に着くのはだいたい22時とかでしたね。練習は19時くらいに終わって、あとは個人練習。ナイター(設備)がついているので、バッティングしたりして……」。
その頃から練習の虫だった。「帰っても暇なんで練習しようと思っていました。最初はしんどかったけど、それも慣れてしまったら、普通になるんでね」。野球の伝統校・熊本工だが「厳しかったですけど、よく(他の名門高校などで)言われるような厳しさからはもうだいぶ……。僕らの時代くらいから、今の時代の方に寄っていきだしたのかなと思います」と、理不尽なしごきなどは少なかったそうだ。
1学年先輩には田中秀太内野手(現阪神1軍内野守備走塁コーチ)がいたが「優しかったです」と荒木氏は言う。「だから僕も、下級生に対して何かあったとしても、もういいやって感じ。そんな時間、もったいないからって練習していました」と、とにかく練習に明け暮れた様子だ。熊本大会準決勝敗退の1993年の1年夏はベンチ入りできなかったが、新チームから二塁レギュラーとして試合に出るようになった。
無駄にしなかった高校2年夏の“ベンチ経験”
1993年秋、熊本工は熊本大会準優勝で九州大会に進出。2回戦で佐賀東、準々決勝で延岡学園を破った。準決勝で那覇商に敗れたものの、翌1994年の春の選抜出場切符を掴んだ。もっとも荒木氏は「その時は甲子園に行けたらいいなぁ、くらいだったんじゃないかと思います」と淡々。大舞台出場を確定させても到達感なども「まだ下級生ですし、なかったです」と言い、初めての甲子園については「何にも覚えていないんですよ」と苦笑した。
熊本工は1994年春の選抜1回戦で姫路工に2-6で敗れた。「覚えていないのは、それだけ浮き足だっていたんでしょうね。(甲子園の)雰囲気にのまれたんだと思います。気付いたら終わっていたという感じなのでね。ノーヒット。僕、高校の時、甲子園ではヒットを1本も打っていませんからね」。同年夏は甲子園どころか、熊本大会初戦(2回戦)で熊本市商(現・千原台)に敗退した。しかも9-3で迎えた9回に7点を取られての大逆転負けだった。
「それは覚えています。僕、その試合に出ていませんから」。選抜後、不調に陥ったという。「何かうまくいかなくなって、結果も出なくて……。同級生で、すごく打ち始めた選手がいて、そいつが(自分の代わりに)出ていましたね。あの試合は、前の回(8回裏)にスクイズのサインミスがあったんです。そのスクイズで点をとっていれば(10-3で)コールド勝ちだったんです。それができなかったことによって逆転されたんですよ。僕はベンチでずっと見ていました」。
選抜ではレギュラーだったのだから、悔しい結果のはずだ。しかしながら「苦しくはなかったんですよ」とも話す。「だって自分が打てないんだから、しょうがないですもんね。打てるように練習しようと思うだけ。多少の悔しさはあってもしかたがないから練習しようってね」。いつの時代も練習第一。それが荒木氏のスタイルだったのだろう。「たぶん自分の性格でしょうねぇ。自分の立ち位置を常に分かってやっていたのかなぁ」。
夏の熊本大会での熊本工の初戦敗退は45年ぶりの屈辱だった。「まぁ、早いとこ、新チームにはなりましたからね」。実際、荒木氏は練習でまた巻き返し、2年秋からは「1番遊撃」で活躍しはじめる。「2年の夏の大会が終わり秋の大会までの間に、野球がうまくなってきたかなって感覚は、そこで1回感じましたね」。2年春の選抜の“レギュラー経験”も、2年夏の“ベンチ経験”もすべて無駄にせず成長につなげた。
(山口真司 / Shinji Yamaguchi)