甲子園で4試合連続完投→掴んだプロの夢 「並外れたものはない」も…21歳が“覚醒”したワケ

琵琶湖の刺しゅう入りのグローブを持つ西武・山田陽翔【写真:小林靖】
琵琶湖の刺しゅう入りのグローブを持つ西武・山田陽翔【写真:小林靖】

高3春の選抜ではまさかの代替出場で4試合連続完投の奮闘

 西武・山田陽翔投手が3年目のブレークを果たしている。4月に中継ぎで1軍デビューを果たすと、いきなり15試合連続無失点の快進撃を演じ、7月3日の時点で22試合1勝1敗8ホールド、防御率0.40の好成績を挙げている。滋賀・近江高時代に3季連続で甲子園を沸かせた右腕が、プロの世界でも輝きを放ち始めた。

“滋賀愛”が深い。練習用も試合用も山田のグラブは、手のひらが当たる部分に、出身地の滋賀県を象徴する琵琶湖のシルエットがブルーの糸で刺繍されている。

 中学時代には3歳上の兄・優太さん(現在は京都・佐川印刷の軟式野球部で外野手としてプレー)が所属していた大阪桐蔭高などからも声がかかったが、地元の近江高を選んだ。「地元の方々に応援してもらってやるのがいいなと思いましたし、滋賀県の高校はまだ1回も全国優勝をしたことがなかったので」と語る。

 2021年の夏の甲子園では、2年生ながら全5試合に先発登板し、打っても3番か4番を任された。準々決勝の神戸国際大付高戦では本塁打も放ったが、準決勝で智弁和歌山高に敗れた。

 同年の秋には主将に就任するも右肘を痛め、滋賀県大会、近畿大会では4番を務めながら、投手としては1度も登板できなかった。チームも近畿大会ベスト8にとどまり、翌春の選抜大会は補欠校に回っていた。ところが、京都国際高が新型コロナウィルスの集団感染で急きょ出場を辞退したことに伴い、開幕2日前(初戦3日前)に代替出場が決定。「走り込みばかりで、投手として全く準備ができていない状態。ぶっつけ本番でした」という山田の奇跡的な快進撃が始まる。

 1回戦の長崎日大高戦で延長13回を投げ切ったのを皮切りに、4試合連続計42イニングを549球で完投し、決勝に駒を進めた。しかし、ここが体力的限界。決勝では大阪桐蔭高を相手に3回途中4失点で降板し、チームも1-18の大敗を喫した。

甲子園に出場した近江高時代の山田陽翔【写真提供:産経新聞社】
甲子園に出場した近江高時代の山田陽翔【写真提供:産経新聞社】

「甲子園でアピールできていなかったらプロに入れていないかも」

“最後の夏”も主将兼エース兼4番として甲子園出場。3回戦の長崎・海星高戦では満塁本塁打を放ったが、準決勝で山口・下関国際高に敗れている。

 準優勝1回、4強入り2回と頂点に迫ったが、入学時の目標だった“滋賀から初の日本一”は達成できなかった。いまだに滋賀県勢が甲子園大会で優勝したことはなく、準優勝も山田が奮闘した2022年の春と、2022年の夏の2回だけで、いずれも近江高だ。「悔しかったです」とため息をつくが、一方でハードな戦いぶりについては「自分が日本一になりたいと言って始めたことで、覚悟を決めていたので、つらいとは思いませんでした」と言い切る。

「自分はこれといって並外れたところのない投手ですから、甲子園でアピールできていなかったら、プロに入れていないかもしれません。そういう意味で、あそこで投げられてよかったなと思っています」と謙虚に受け止めている。2022年ドラフト5位で西武入り。プロ入り時に立てた目標は「最初の3年間でしっかり土台をつくる」だった。実際に3年目でブレークし、「1、2年目に土台を作ってやれているのは、すごくいいなと思います」と微笑んだ。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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