左膝を襲う剛腕の球…激痛のはずが「すげぇ」 元ドラ1が感じたプロの壁「レベルが違う」

元ロッテ・服部泰卓氏、1学年上の元巨人・條辺と対戦
2007年の大学・社会人ドラフト1巡目でロッテに入団した服部泰卓氏は、貴重な中継ぎ左腕として2013年に51試合登板するなど8年間のプロ野球生活を送った。2015年の現役引退後はサラリーマン生活も経験。2023年には独立して自身の現役時代の背番号「20」を社名にした会社を立ち上げ、講演活動やセミナー開催などさまざまな事業を行っている。現役引退までは野球一色の人生。1998年に進学した徳島の川島高時代は、後に巨人に入団する1学年上の阿南工高・條辺剛投手との対戦が「一番印象に残っている」という。
強豪の池田高に憧れ、中3時は推薦枠も手にしていたが、周囲の説得もあって野球部の実績は乏しかった川島高に進学。入学直後、野球部員の数は多くなく3年生4人、2年生6人だった。1年生の服部氏にもすぐにチャンスが回ってきたという。「各学年の全員がレベル高いわけではないので、すぐ出られたんです。でも『3年生最後の意地の力は凄いんだ』とおっしゃっている先生だったので、同じレベルだったら絶対に上級生が試合に出ていました。だからスタメンは上級生が出て、途中からリリーフで行ったりとか、最初はそういう感じでしたね」。
当時、川島高が何度か練習試合を組んでいた相手に阿南工高があったという。入学から数か月。その機会が訪れた。「先輩が『條辺投げんのかなぁ?』とか『條辺、條辺』って言っているから、何なんだろうと思っていました。『阿南工の條辺』というのは有名だったんですけど、僕は知らなかったんです」。2年生ながら188センチの長身を誇る條辺剛投手。翌1999年にドラフト5位で巨人に入団し、救援投手として活躍した右腕の剛速球は迫力満点だった。
「190センチ近い大男で、投球練習からバンバン凄い速い球を投げているんです。今まで小・中学校でも弱小チームでやってきて、手も足も出ないようなピッチャーに出会ったことはありませんでした。そんな速い球を見るのも初めてでしたね。自分は1年生で高校野球を始めたばかり。川島高校はそこまで強くないから、それまでの練習試合の相手もそんなに凄い球を投げるピッチャーと対戦したことがなかったんです。條辺さんの球を見て『すっげぇピッチャーがいる! しかも2年生らしい』って衝撃を受けました」
その試合、條辺は先発ではなかったが、途中から登板。途中出場した服部氏にも打席が回ってきたという。「『打席で見たらどんな感じなのかな』って、すごくワクワクしたのを覚えています。とりあえず体感したいから、1球目は振らないで見ようと思ったら投げた瞬間『ドォーン!』ってすっごく速い球が来て、ど真ん中のストライクだったんです。じゃあ、そのタイミングに合わせて『投げた瞬間、振らないと間に合わないかな』と思って、準備してたらすんごいカーブが来て、もう万事休すです」。
172センチ、68キロとプロ野球選手として決して大きくない体格だった服部氏は、高校時代はもっと線が細かった。2球であっさりと追い込まれ「マズいマズい」と思いつつ、必死に考えを巡らせる。「体は小さいしガリガリだったし、僕みたいな川島高校の1年生には、3球勝負で絶対に真っすぐが来る」。イメージは初球にしっかり見て、体感した剛速球。「来た瞬間振ったろうと思って振ったら、顔より高い球で空振り三振したんですよ。本当、大人と子どものような対戦。全然次元が違うピッチャーを感じさせてもらいました」。
初めて本気でプロを意識「レベルが違いすぎる」
少年野球を始めたころから「プロ野球選手になりたい」と夢を口にしていたが、あくまで漠然としたイメージ。「実際にプロ野球選手を見たこともなければ、どういう人がなるかも知らない。でも、條辺さんを見たとき『ああ、こういう人がプロになるんだ』って初めて感じました。『ちょっとレベルが違いすぎる』って興奮した覚えがある」。初めて本気で、プロを意識した瞬間だったそうである。
1年後の春先、再び練習試合で條辺と対戦。リベンジの機会がやってきた。「1年間高校野球やってきたし、自分との差はどんだけ埋まったんだろう、開いているかもしれないけど……」。期待と不安を抱きつつ打席へ。「前回でスピードが速いのは分かっているから、1球見ていたら間に合わない。1球目から勝負かけないといかんと思って、100%真っすぐにヤマを張って振ったんです。今度はバットに当たったんです」。1年間頑張ってきた成果を感じた。
「ちょっと差し込まれたけど真後ろに飛んだんです。前回は球が見えなかったけど、今度は見えるし、バットにも当たった。後はもう少し前で打てれば……。バットの(スイングの)軌道がボールの下だったから、バットを立てて、そしたら前に飛ぶかもしれないって思って。それで次の球を少し早めに振りにいったら、直角に曲がって膝に直撃したんです」
スイングする間もなく鋭いスライダーが左膝を直撃して死球。「真っすぐと思って振りにいっているんですけど、振らしてもくれなかった」。激痛のはずだが「痛みよりも『すげぇ曲がる』『プロの変化球って、こういうやつなんだ』って驚きました」という。「曲がる球って投げた瞬間に『あっ、カーブだ』『スライダーだ』って分かっていたんですけど、打つ瞬間に曲がってきて膝に当たるなんて思ってもみなかったんで、もう衝撃でしたね。條辺さんには真っすぐと変化球で2度、プロを感じさせてもらいました。高校時代で一番印象に残っていますね」。
技巧派の服部氏と本格派の條辺。「投球スタイルも、体のスケールも違いますけど、憧れましたね。『格好いいなぁ』って」。その條辺はドラフト5位でプロ入り。「條辺さんでも5位。それもビックリしました。『條辺さんより凄いピッチャーがまだいるんだ。1位じゃないんだ』って。『プロ野球って、どんな世界なんだ』って思いました。いかに自分が狭い世界でしか野球をやれていないんだなというのを感じましたね。『こんなふうになりたい』って感情になりました」。大学、社会人を経て“ドラ1”でプロ野球選手となった服部氏。思考の面で土台を築いてくれた、大きな対戦であった。
(尾辻剛 / Go Otsuji)

