西武・平良が160キロにこだわらない理由 高校時代に訪れた“転機”「頭で考え始めた」

今季パ最多セーブ獲得「相手の弱点を柔軟に突く投球」が理想
今季パ・リーグで最多セーブのタイトルを初めて獲得した西武・平良海馬投手。8年間のプロ人生で中継ぎ、先発、抑えと役割を変えながら、全てで抜群の成績を残してきた。来年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で野球日本代表「侍ジャパン」入りと活躍が期待されるハイパー右腕に、理想の投球スタイル、部員不足のため連合チームで試合に臨まなければならなかった高校時代について聞いた。
最速160キロを誇り“剛腕”のイメージが強いが、実際には速球一辺倒とはほど遠く、チェンジアップ、カットボール、スライダー、ツーシームなど多彩な変化球を駆使。相手打者をより確実に仕留める投球スタイルを取っている。
そんな平良の理想は「相手の弱点を柔軟に突けるピッチャーになること」だという。「最近は過去の対戦から“この打者に、このカウントで、このコースに、この変化球を投げれば、打ち取れる可能性が高い”というようなデータが出ます。そこを正確に突ける“コマンド”(単にストライクゾーンにボールを集める能力を意味する『コントロール』と違い、狙った場所に正確に投げ込む、より高度な制球力のこと)が大事になってくると思います」と説明する。
さらに「ストレート、スライダー、チェンジアップ程度の少ない球種で頑張っている投手もいますが、ツーシーム、カットボールなどもあった方が、もっと相手の弱点を突けるわけで、いろいろな球を投げて弱点を突ける投手が理想です」と付け加えた。
平良が生まれた1999年は、平成11年にあたる。昭和の時代には、投手は剛速球をど真ん中に投じ、打者はフルスイングで応えるというような野球がもてはやされたものだが、驚異的な球速を持ちながらコマンド、多彩な変化球を重視する平良には、隔世の感がある。

「楽しみを追求するなら、空振りか、ホームランかの方が楽しいけれど…」
「楽しみを追求するなら、確かにストレート勝負の方が楽しいと思います。オールスターがまさにそれで、空振りかホームランでいいと思います」としたうえで、「レギュラーシーズンは勝負であり、仕事ですから、いかに抑えるかを考えますし、しっかり戦略を組み立てて臨んだ方が、しっかりした成績が出ると思っています」と力を込める。
いまや徹底的なデータ主義で知られる平良だが、沖縄・石垣島出身で、八重山商工高3年の春には野球部員の数が足りず、宮古島の宮古工高と連合チームを組んで沖縄県大会に出場した。
「1度だけ宮古島で連係プレーの練習を一緒にやって、『それでは来週の試合、頑張りましょう』という感じでした」と苦笑い。こうして臨んだ春季沖縄大会は、1回戦で中部商高に延長10回の末、2-3で敗れた。
そんな環境でも、平良はコツコツと努力を重ね、高3の春を前に球速は150キロを超えた。「高2までは、監督に言われた通りの練習をやるだけでした。ところが、高2の秋に監督が学校の先生に替わり、練習メニューなどを自分たちで考えなくてはならなくなりました。成長するために何をするかを、自分の頭で考え始めました。それが良かったと思っています」と振り返る。
最後の夏は、なんとか単独チームで臨むも、またもや沖縄大会1回戦で首里高に0-1で敗退。それでも自主的な練習で成長を遂げた平良は、西武からドラフト4位指名を受け、プロの道を歩き始めたのだった。
今夏の全国高校野球選手権では、沖縄尚学高が沖縄県勢として15年ぶりの全国制覇を達成した。平良は「沖縄では高校野球は、代表校の試合が始まると街から人がいなくなるくらいインパクトがあります。そういうのって、高校野球でないとつくり出せないものだと思うのです」と微笑む。
沖縄の離島から台頭した右腕が、プロ野球で唯一無二の存在感を示し、間もなく世界へ羽ばたこうとしている。理論的な思考とは裏腹に、その野球人生は実にドラマチックだ。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)