ゆがむ地面「おかしいな」…構想外へ追い込まれた原因不明の病 拭えぬ恐怖、OB試合すら「怖い」

楽天時代の今江敏晃氏【写真:荒川祐史】
楽天時代の今江敏晃氏【写真:荒川祐史】

今江敏晃氏は2019年1月、ノックを受けるも地面がゆがみ「おかしいな

 ロッテ、楽天で計1704試合に出場して1682安打を放った今江敏晃氏は、2019年限りで18年間の現役生活に終止符を打った。引退決断に際して最も大きな理由を占めたのが、右目の不調だ。春季キャンプ出発直前に突如発症した原因不明の病は、実は今でも症状が治まっていない。

 FAで移籍した楽天での3年契約を終え、年俸2億円から減額制限(1億円以上は40%)を超える75%減となる5000万円で契約を更改して迎えた2019年。プロ野球界の“正月”とも呼ばれる春季キャンプへの出発を翌日に控え、仙台市内の室内練習場で汗を流していたときのことだった。いつものようにノックを受けたが、地面がゆがむ。白い壁を片目ずつ見てみると、右目で見たときだけ黄ばんで見えた。「なんだこれ、おかしいな」。トレーナーに相談して病院に行くと、眼球の中に水が溜まる病気だと告げられた。

「原因がわからないものは、ストレスと言われるんです。治るのに時間がかかるから、1か月くらいかけて徐々にやらないとって。でも僕はそんなことを言っていたら開幕に間に合わなくなる。2、3日仙台に残って、精神を落ち着かせるために真っ暗なところでヨガをやったりしたけど、すぐにはよくならない。結局練習していたら知らない間に落ち着いてきたけど、大丈夫だと思ったら再発してしまいましたね」

 並々ならぬ意欲を燃やして挑んだシーズンで、まさかのつまずきだった。「少しでもよくなる可能性があるなら」とあらゆる治療を行ったが、元に戻ることはなかった。「結局、ボールを見るのに全然感覚が合わない。バットに当たらない。これはダメだなと思いました」。この年は26試合の出場にとどまった。

ロッテ、楽天で活躍した今江敏晃氏【写真:町田利衣】
ロッテ、楽天で活躍した今江敏晃氏【写真:町田利衣】

構想外→コーチ就任打診に「選手として貢献できなかったので指導者で」

 シーズンも残り5試合ほどとなったとき、球団側から構想外を告げられた。「3日以内くらいに決断したら引退試合ができると言われたんですが、今まで何十年と野球をやってきてそんなにすぐ決断できない。本当は引退したくないと思っていたので、粘り強く『どこかないかな』とか思ったんですが……」。当初は現役続行を模索したが、目の状態は上向かなかった。家族や信頼できる知人に相談し、現役引退を決断したのは約1週間後のこと。そのため引退試合ではなく、ファン感謝祭で引退セレモニーが行われた。

「(引退の決断理由は)目のことが一番です。ただ2005年にブレークしてWBCにも出て、そこからは自分なりに試行錯誤して、悩んだ時期がありながらレギュラーを守らないといけない立場でずっとやってきた。プロ野球の世界で結果を出していくのはやはり大変。自分なりに命削ってやってきて、野球に対しての空腹感はなくなってきていた部分はちょっとあった。引退って言葉が出たときに、自分自身も安堵というか、これで野球のことを考えなくて済むんだという気持ちが出てきたのもあった。そこは大きかったかもしれないですね」

 引退を決断した夜、何十年ぶりにぐっすりと眠りにつけた。長い間、走り続けてきた証だった。しかし実は、今も目は治っていない。「治療でいろいろやりすぎて、本来治っていくものがゆがんでいる。OB戦とかあっても打つのが怖いんですよ」と打ち明けた。

 構想外を告げられた際に受けたコーチ就任の打診は、「選手としては貢献できなかったので指導者として少しでも恩返しできたらという思いで」と受諾。第2の野球人生のスタートを切った。2軍コーチを3年半務め、2023年途中に1軍打撃コーチに配置転換。そしてそのオフ、1軍監督の就任要請を受けることとなる。

(町田利衣 / Rie Machida)

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