コーチより「選手は聞く耳持つ」 侍J・金子ヘッド苦笑いも…感嘆する“ダルビッシュが慕われる必然性”

「侍ジャパン」の宮崎合宿にアドバイザーとして参加するダルビッシュ有【写真:小林靖】「侍ジャパン」の宮崎合宿にアドバイザーとして参加するダルビッシュ有【写真:小林靖】

ピッチクロック、ピッチコムの指南役としてうってつけ

 3月5日開幕のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で大会連覇を狙う野球日本代表「侍ジャパン」。2月14日から始まった宮崎合宿で、監督・コーチ・選手以上に存在感を放っているのが、アドバイザーとして参加しているダルビッシュ有投手(パドレス)だ。その姿を、現役時代に日本ハムのチームメートとして同じ釜の飯を食った金子誠ヘッドコーチが感慨深げに見つめている。

 昨年10月に右肘の手術を受けたため、選手としては侍ジャパンに加わることができなかったダルビッシュだが、ブルペンで若い投手たちに技術的なアドバイスを送るだけではない。いまやチームにとって不可欠な役割を果たしている。

 今回のWBCには、日本のNPBに未導入のピッチクロック、ピッチコムが採用される。MLBでこの2つに慣れっこのダルビッシュは、NPB選手への指南役として打ってつけなのだ。さらに、WBCの本番で対戦することになるMLB所属選手の特徴をレクチャーする役割も担っている。

 普段からMLBのルールで戦い、MLBの選手としのぎを削っているダルビッシュが語る内容は、説得力が段違い。金子ヘッドは「当然、われわれコーチが話すより、ダルビッシュが話してくれた方が選手たちはみんな聞く耳を持つよね」と苦笑するしかない。

打撃指導する金子誠ヘッドコーチ【写真:小林靖】打撃指導する金子誠ヘッドコーチ【写真:小林靖】

 実は、ピッチクロックの導入は投手だけの問題ではない。投手がボールを受け取ってから、走者なしの場合は15秒以内、走者がいる場合は18秒以内に投球動作を開始しなければならないルールだが、源田壮亮内野手(西武)は「実際には、たとえば相手打者を外野フライに打ち取った場合、外野手からの返球を内野手が受け取った時点でピッチクロックのカウントダウンが始まってしまうと聞いています。だから、フライを処理した外野手はなるべく長くボールを持っていようとか、いろいろ考えているところです」と語る。野手の間でも戸惑いは小さくないのだ。

金子ヘッドのつぶやき「雰囲気が変わりましたよね……」

 ダルビッシュは、そこにも気を配っている。金子ヘッドは「ダルビッシュから『野手の方で困っていることはないですか?』と問いかけをもらいました。『言葉で言うより、僕が具体的にやって見せましょうか?』とまで言ってくれます。せっかくだから、野手の練習にも入ってもらおうという話になっています」と明かす。まさに想定以上、八面六臂の働きぶりである。

「雰囲気が変わりましたよね……」。金子ヘッドはそうつぶやきながら、まぶしそうに目を細める。ダルビッシュは2004年のドラフトで1位指名を受け日本ハム入り。当時現役の金子ヘッドは、2006年に選手会長、2007年には主将にも任命され、名実ともにチームの中心だった。

日本ハム時代にオープンカーに乗りパレードする金子誠氏(左)、ダルビッシュ有【写真提供:産経新聞社】日本ハム時代にオープンカーに乗りパレードする金子誠氏(左)、ダルビッシュ有【写真提供:産経新聞社】

「ダルビッシュがメジャーへ移籍した後、日本ハムがアリゾナで春季キャンプを張った時(2016〜19年)には、毎年あいさつに来てくれて、その時点で『時って、こんなに人を変えるものなのか』と思いました」と振り返る。

「もともと一流の雰囲気を漂わせていましたが、さらにオーラから何から、あらゆるものを身に着けた。そりゃ、選手たちも話を聞きたがるでしょ」と感嘆する金子ヘッド。「(侍ジャパンとしては)それをいい方向に利用させてもらおうかなと思っています」と語るのだった。ダルビッシュ自身、日米通算21年の現役生活で、私生活を含めて、さまざまな経験や試行錯誤を経たからこそ今の姿があるのだろう。

ダルビッシュの手術後も「井端監督の口からは名前が継続的に出ていた」

 ダルビッシュは3年前の前回WBCでも、MLB所属選手ではただ1人、宮崎合宿からチームに合流。今回同様、若い投手たちにアドバイスを送り、コミュニケーションを密に取ってチームの結束にも大きな役割を果たした。

 井端弘和監督は、前回WBCで侍ジャパンを率いた栗山英樹前監督から引き継ぐ格好で、ダルビッシュを宮崎に呼んだ。金子ヘッドは「井端監督の口からは結構早い段階から、ダルビッシュの名前が出ていました。もちろん、手術をする前は戦力として。手術をした後も、ダルビッシュの名前は継続的にずっと出ていて、『どういう形でもいいから来てくれたらいいな』とおっしゃっていました」と証言する。

 まさに唯一無二の存在。こうなると次回のWBCも、その次も、ダルビッシュの立場がどうであれ、肩書が何であれ、侍ジャパンにいてくれなくては困ると思えてくる。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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