イギリス代表主将チザムJr.ら多くの他国スター選手を生む“米国の構造”
野球の国・地域別対抗戦「第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」の1次ラウンド、プールB(アメリカ、イギリス、イタリア、ブラジル、メキシコ)が行われている米テキサス州ヒューストンのダイキン・パークは、連日熱気に包まれている。
開幕から3日目を終えた8日(日本時間9日)までの6試合の総観客数は19万5795人となった。親や祖父母の出身地や選手自身の出生地など、決められた条件を満たせば希望する代表のユニホームを着てプレーできるため、それぞれの思いで選んだ代表チームで国や地域の威信をかけて戦うメジャーリーガーたちの姿は新鮮に映る。
彼らの球歴を見て気付くのが、アメリカで野球の基礎を学び高校生なると、スカウトの視察機会が提供される「トラベルボール」というクラブチームに参加して技術を練り上げているということである。
イギリスチームの主将を務めるジャズ・チザムJr.内野手(ヤンキース)はイギリス領バハマの出身。12歳の時にアメリカに移り住みカンザス州の高校に通ったが、同州を転戦するチームに参加しスカウトたちの目を引いた。また、チザムとともに主将を務めるハリー・フォード捕手(ナショナルズ)は、地元ジョージア州の高校野球部に所属しながら、クラブチームで汗を流している。
日本とは違い、アメリカでは年間を通じて活動する野球部はないため、選手を育成しプロのスカウトから評価をもらえるクラブチームが多く存在する。高校の野球部では切磋琢磨ができず、プロを目指すには高校野球と「トラベルボール」の両方で経験を積む選手が多い。こうした育成システムがしっかりと構築されている。
トラベルボールは「友達と一緒にプレーしながら、近場だけじゃなく州の中を転戦」
2023年のWBC準決勝で日本に敗れ、今回雪辱に燃えるメキシコチームにも、アメリカの育成システムで基礎固めをし、メジャーで活躍している選手が何人もいる。アレク・トーマス(ダイヤモンドバックス)、ジョーイ・オルティス(ブルワーズ)は、メジャーのスカウトが多数観戦する「ショーケース」で評価を高めている。
ブルージェイズやブルワーズなどで豪快な打棒をふるったロウディ・テレスは、多くのメジャーリーガーを輩出しているカリフォルニア州の名門エルク・グローブ高校で活躍。ニック・マドリガル(元メッツ)、ディラン・カールソン(元カージナルス)とはチームメートで、彼らとともにトラベルボールにも参加している。
テレスは当時のことについてこう話す。
「友達と一緒にプレーしながら、近場だけじゃなく州の中を転戦するんだ。金曜日、土曜日、そして日曜日に5試合とか6試合やって、その週のどこかで1日練習日が入る。これを繰り返していくから、年間を通してかなりの量の野球ができる。そのうち、僕らのことが気になると向こうから高校までやってくるようになるんだよね」
高校時代にテレスの名は全国のメジャースカウトたちに知れ渡った。全米のエリート選手で構成されるチームに選ばれると、奨学金を受け名門の南カリフォルニア大に進学した。
グローバル化を目指す野球の国・地域別対抗戦WBCの裾野は、野球を国技とするアメリカに通じている。
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【マイ・メジャー・ノート】
1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト・木崎英夫記者による深堀りコラム。現場での取材からはもちろん、豊富な取材メモから送るエピソードも。コアなMLBファンのための記事を原則週1本配信。
○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続けるベースボールジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。東海大相模高野球部OB。
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)