“松井稼頭央2世”が「おこがましい」 重荷はね返せず戦力外…救われた「プロ野球選手が全てじゃない」

現役時代の川野涼太氏【写真:宮脇広久】現役時代の川野涼太氏【写真:宮脇広久】

2019年ドラフト4位で西武に入団…2025年限りで現役を引退した川野涼太氏

未着手 昨年現役を引退した川野涼太氏は、2019年ドラフト4位で九州学院高から西武に入団した。前監督と同じ両打ちの遊撃手で「松井稼頭央2世」と期待を集めたが、24歳の若さでユニホームを脱いだ。結果を残せず、苦しんだプロでの6年間。大きすぎる呼び名が、いつしか自身を縛る重荷になっていた。

子どもの頃から松井前監督が憧れの存在で、高校時代はDVDを何度も見返し、守備を学んだ。2軍監督として指導を受けた時は、少しでも多くを吸収しようと、ベンチでも隣に座り続けた。「メッツ時代に、開幕戦の初球をホームランにした話とかを聞くと、僕とは生きている次元が違うと感じました」。自分が見たことのない世界の話に胸を高鳴らせながら、その背中を追い続けた。

松井前監督からは「俺を越えなければだめだぞ」と言われていた。必死に食らいついたが、現実は厳しかった。1軍出場はわずか5試合。2023年オフに戦力外通告を受け、育成選手として再契約を結んだ。

何かを変えなければ……。悩み抜いた末に両打ちを諦め、右打ち一本に絞った。だが、右投手への対応に苦しみ、結果はついてこなかった。年月が過ぎるにつれ「松井稼頭央2世」という呼び名は、誇りから重圧へと変わっていった。

「1年目、2年目、3年目は、それを背負える立ち位置にいたんです。でも、だんだん遠のいていった。育成の期間が長くなると『おこがましいな』って思うようになりました」。結果を出さなければならない。そう思うほど、申し訳なさが募っていった。

2024年5月に成績不振のため休養した松井稼頭央前監督【写真提供:産経新聞社】2024年5月に成績不振のため休養した松井稼頭央前監督【写真提供:産経新聞社】

松井稼頭央氏から「ここから、お前がどうしていきたいかが大事だ」

 2024年5月に成績不振のため松井前監督が休養。「育成から這い上がってやろうという気持ちがありました。でも、稼頭央さんがいなくなって、心にぽっかり穴が開いてしまったんです」。自分の中で、あまりにも大きな存在だった。その後、支配下復帰はかなわず、2025年オフに再び戦力外通告を受けた。球団事務所を出て、真っ先に連絡を入れた相手は、やはり松井前監督だった。

「『戦力外になりました』と伝えました。『独立とかでやる気はないか』と言っていただきましたが、『NPB一本でやっていきたいです』と答えました」

すると、こんな言葉が返ってきた。

「野球では活躍できなかったかもしれない。でも、野球を辞めた後の人生の方が長い。プロ野球選手が全てじゃない。ここから、お前がどうしていきたいかが大事だ」

その言葉は、気持ちの整理がつかずにいた胸に、静かに染み込んだ。

今年からライオンズアカデミーのコーチに就任【写真:球団提供】今年からライオンズアカデミーのコーチに就任【写真:球団提供】

 現役時代から変わらず、気にかけてくれる存在だ。今でも食事に行き、相談に乗ってもらうこともある。「お父さんみたいです。僕の中で、稼頭央さんを超える存在はいません」。

 憧れ続けた背中に、追いつくことはできなかった。それでも、その背中を追いかけた日々が消えることはない。今年から、ライオンズアカデミーのコーチに就任。「松井稼頭央2世」と呼ばれた日々を誇りに、“川野涼太”として新たな一歩を踏み出した。

(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)

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