投手は“遅い速球”で被弾、打者は“速い球”打てず…打率.130、OPS.374の惨状 侍Jの敗戦は「結果以上に差があった」|侍の誤算。#6

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    DELTA・三好侑里(聞き手:尾辻剛) 2026.03.31
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史上初めてベスト8で敗退した「侍ジャパン」【写真:荒川祐史】史上初めてベスト8で敗退した「侍ジャパン」【写真:荒川祐史】

データで明らかに…侍ジャパンと世界トップの明確な差

 侍ジャパンのパワー不足が顕著に表れていた。第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、野球日本代表「侍ジャパン」は、史上初めてベスト8で敗退。2度目の連覇はならなかった。日本には何が足りなかったのか。セイバーメトリクスの観点からプロ野球などの分析を行う株式会社DELTAのアナリスト、三好侑里氏は、準々決勝で対戦して敗れたベネズエラなどの強豪国との違いに言及する。

「ベネズエラはメジャーリーグの打者がそろっている。日本は決して予想外の敗戦というわけではありません」

 侍ジャパンは準々決勝の初回、先発の山本由伸投手が先頭のアクーニャJr.に被弾。先制パンチを浴びた。それでもその裏、大谷翔平投手が同点の先頭打者アーチ。再び1点を追う3回には、佐藤輝明内野手が同点の適時二塁打、森下翔太外野手が勝ち越し3ランを放ってリードを奪った。

 山本が4回2失点と粘り、4回を終わって5-2とリード。だが、5回に2番手・隅田知一郎投手が2ランを被弾して1点差に迫られると、6回には4番手・伊藤大海投手が逆転3ランを浴びた。

 8回にも守備のミスで1点を失い、5-8で敗戦。打線は4回以降3安打に封じられ、得点できなかった。日本を破ったベネズエラは勢いに乗り、準決勝でイタリアを撃破。決勝でも米国を下して初の世界一を達成しただけに「その結果から見ても、ベネズエラは強かったのです。その相手との試合は中盤まで拮抗して、日本は途中まで勝っていました。勝っていてもおかしくない内容で、日本も十分に強かったです」と振り返る。

 1次ラウンドを4戦全勝で突破した侍ジャパンの得失点差25は、ドミニカ共和国に次いで全体2位。世界の強豪に引けを取らない、トップクラスの数字を叩き出している。どちらが勝ってもおかしくなかったベネズエラとの準々決勝だけで、実力差を測ることは難しい。では、勝敗を分けた差はどこにあったのか。三好氏はデータ面から「投手、打者ともパワー面が不足していました」と指摘した。

大会全体で直球の平均球速は上がったが…日本は変化なし

 まず注目したのは投手の球速だ。侍ジャパンのフォーシーム(直球)の平均は、優勝した2023年の前回大会は95.5マイル(約153.7キロ)で全体1位だった。これは佐々木朗希投手が数値を押し上げていた側面があり、佐々木を除いて計算すると94.7マイル(約152.4キロ)で全体3位となる。

 これに対して今大会での平均球速は94.6マイル(約152.2キロ)で全体4位。ベネズエラが前回大会95.1マイル(約153.1キロ)から全体2位の95.8マイル(約154.2キロ)と0.7マイル数字を上げてきたのとは対照的だった。

「大会全体で見ても、フォーシームの平均球速は前回大会から約0.5マイル上がっています。半数以上の国が球速を上げてきた中で、日本は相対的に低下している。佐々木朗希投手を抜いて見ても、ほとんど変化がありません。もちろん、今回のメンバーは球速だけで選んでいるわけではない部分はありますけど、他国は全体的に少しずつ球速をアップしてきているのが分かります。日本は球速の面では進歩が見られなかったと言えます」

逆転3ランを浴びた伊藤大海【写真:荒川祐史】逆転3ランを浴びた伊藤大海【写真:荒川祐史】

 侍ジャパン投手陣はベネズエラ打線に3被弾。いずれも高めの直球を捉えられた。打たれた球速は山本が156キロ、隅田は151キロ、伊藤は146キロ。MLBの直球の平均球速は2025年が94.1マイル(約151.4キロ)で、1番のアクーニャJr.をはじめ、MLBのオールスター級がズラリと並ぶ超重量打線の餌食となった。

「あくまでフォーシームだけ切り取ったデータですが、隅田や伊藤が打たれたフォーシームの球速はMLBの平均以下です。全体的にパワー不足を感じました。メジャーの打者は、遅い直球は簡単に仕留めてきます。それを改めて認識しました。山本は156キロでしたが、アクーニャJr.らトップクラスになると1巡目から対応してきます」

バレル率はベネズエラ29.6%に対し、侍ジャパンは14.3%

 打撃面でも数字で差がついた部分がある。打球速度95マイル(約152.9キロ)以上のハードヒット率は、1次ラウンドを含めたトータルでは前回大会の40.9%(全体3位)に対して今大会は45.3%(同3位)と上昇。本塁打になりやすい角度の打球であるバレル率も、前回8.8%(同6位)から今回は14.1%(同2位)とアップしている。

 だが、準々決勝に限った数字を見ると状況が変わってくる。ハードヒット率は42.9%で、対戦相手のベネズエラの51.9%を下回る。バレル率は侍ジャパンが14.3%で、ベネズエラの29.6%の半分以下だった。ベネズエラと比較すると、投打にパワー不足を実感する試合だったのである。

「ローンデポパークはメジャーの中でも広めの球場。二塁打で助かった場面もありました。山本由伸が2回に打たれた二塁打も、他の球場ならスタンドに届いていたと思います。そんな打球が2、3本あったかなと感じました。得点は3点差でしたけど、結果以上に内容には差があったかなと思います。はっきり差が見える形になりました」

94マイル以上の速球に対し、打率3割超えの米国&ドミニカ共和国

 それだけではない。メジャーの直球の平均球速に近い94マイル(約151.3キロ)以上に対する打撃成績で明確な差が出た。今大会を通じて、侍ジャパンは打率.130、OPS.374と大苦戦。これに対し、相手投手のレベルが上がった準決勝以降の数字を含むにもかかわらず、優勝したベネズエラは打率.264、OPS1.007と侍ジャパンを大きく上回った。

試合に敗れ、ベンチからベネズエラナインを見つめる牧秀悟ら【写真提供:産経新聞社】試合に敗れ、ベンチからベネズエラナインを見つめる牧秀悟ら【写真提供:産経新聞社】

 準優勝の米国は打率.321、OPS.945を記録。ドミニカ共和国も打率.323、OPS.931だ。メジャー組の大谷翔平投手、鈴木誠也外野手、吉田正尚外野手らが奮闘したものの、侍ジャパンとの明確な差が浮き彫りとなった。

「日本はかなり苦しんでいる印象があります。かなり低い数字で、こんなに打てていなかったんだという感じです。全体的な球速も上がっている中で、速い球への対応ができないと厳しいかなと思いますね」

 課題は投手陣の球速不足と、攻撃陣の速球への対応力。「フォーシームの球速が、日本は変わってないという意味で、相対的に低下しています。他国についていけないと、今後も厳しい戦いが続くんじゃないのかなと思います」と指摘し「打撃でも差がはっきり出た」と言及した。

 世界一奪還へ必要なのは投打ともにパワー面の充実。「パワー面を伸ばしていくのが一番の近道なのかもしれません」。データ分析のプロが指摘した強豪との違い。パワーの差を縮めることが、世界一奪還につながっていきそうだ。

⚪DELTA
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。

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 WBC連覇を逃した敗因に迫る緊急連載「侍の誤算。」。現場で目撃した舞台裏と、専門家やデータによる分析で検証する。
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