米国のトイレ事情を真剣に助言「あんなこと言ってきたやつは初めてだよ」 バカ話も、野球哲学も…共通する“懐の深さ”|私だけが知っている松井秀喜#3
アスレチックス時代の松井秀喜【写真:アフロ】コラムとして世に残すのがやや憚られる話題も…触れたゴジラの人柄
Full-Count+の新連載「私だけが知っている松井秀喜」では、当時の担当記者たちが「未発表の記憶」を紐解いていく。前回#2に続き、筆者は清水友博。2011年から2012年にかけて、キャリアの終章に寄り添い続けた「下っ端番記者」だからこそ見えた松井秀喜の素顔——。今回は「トイレの雑談から野球哲学へ」。(敬称略)
2011年。アスレチックスに移籍した松井秀喜の担当記者を任され、筆者は4月に初めて仕事で渡米した。米国での松井番としての最初の仕事は、他の現場と同じ。取材対象との「距離を縮めること」だった。
松井は試合がある日、必ずクラブハウス内の自分のロッカーの前に腰を落ち着け、順番にやってくる番記者たちの取材や雑談に応じてくれた。横柄な態度など微塵もなく、誰に対しても丁寧に、時に冗談を交えながら話してくれる。それだけでも十分すぎるほどありがたいのだが、記者としては「ただ話す」だけでは物足りない。いかに印象に残り、いかに信頼を積み上げていくか。毎日クラブハウスへ向かいながら、今日は何を話しかけようかと頭を悩ませるのが日課になっていった。
スポーツ、映画、食事——興味を持ってもらえそうな話題を手探りしながら、少しずつ会話の糸口を探していた。しかし、最初に話が本当に盛り上がったのは、そういった「準備した話題」ではなかった。正直なところ、こうしてコラムとして世に残すのがやや憚られる話題だ。
渡米して間もない頃、筆者はある深刻な問題を抱えていた。幼い頃から日本のウォシュレット文化に慣れ親しんだ身体が、アメリカのトイレ事情にまったく対応できず、悲鳴を上げていたのだ。シャワー機能などあるはずもなく、トイレットペーパーはごわごわと硬い。毎日のことだけに、これが地味に堪えた。
恥ずかしいような、誇らしいような…「清水って変わってるな」
ある日、ロッカー前での雑談中に、そのことをついポロッと呟いてしまった。すると松井が、すかさず反応した。
「なんだ清水、痔か」
真顔で、しかし目に笑みをたたえながら、そう言った。
私は思わず笑い出してしまった。松井秀喜が「痔か」と言っている。その光景のシュールさと、心配してくれているのか、笑っているのかよく分からない絶妙なトーンに、緊張が一気にほぐれた。
米国での生活が長い松井はその後、いたって真剣に異国でのトイレ「攻略法」を教えてくれた。大物スラッガーから、トイレ事情について丁寧なレクチャーを受けるという、おおよそ記事にはならない時間が流れた。
後から知ったのだが、松井はこのやり取りについて旧知の記者に話していたらしい。「清水って変わってるな。俺にあんなこと言ってきたやつは初めてだよ」と、笑いながら。
恥ずかしいような、誇らしいような、なんとも言えない気持ちだった。ただ、どんな話題にも分け隔てなく付き合ってくれる松井の懐の深さに、改めて驚かされたことは確かだ。超大物選手が、担当になったばかりの若造記者のトイレ事情に耳を傾け、“真剣”にアドバイスをくれる。そんな人が、そうそういるだろうか。
それから約1週間後。今度はまったく異なる話を聞きたくて、松井のもとへ向かった。
「あれは場面の大きさが全然違うからなぁ」感情を爆発させたシーン
(清水友博 / Tomohiro Shimizu)



