キャベッジの激走生還を導いた“軍師の慧眼” 「思ったより弱かった」巨人・川相コーチの刹那の決断

激走する巨人のトレイ・キャベッジ【写真:イワモトアキト】激走する巨人のトレイ・キャベッジ【写真:イワモトアキト】

リスクもあった「GO!」の裏にあった意図

 勝利を呼び込む軍師には“見えて”いたのだ。巨人は10日、東京ドームで行われたヤクルト戦に3-2で競り勝った。やや安定性に欠けた立ち上がりとなったドラフト1位、竹丸和幸投手(鷺宮製作所)を救ったのは、川相昌弘ディフェンスチーフコーチの驚くべき決断だった。

「狙えるところは、狙っていくということですね」

 両チーム無得点の2回1死一塁の攻撃だった。増田陸内野手が左翼線へ強い打球を放った。一塁走者のトレイ・キャベッジ外野手は猛然と二塁ベースを蹴った。しかし、三塁コーチャーズボックスを担当している川相コーチは打球の行方をジッと見つめたまま、向かってくる助っ人へなかなか指示を出さない。
 
 ついにキャベッジがスピードを緩めることなく三塁も蹴った瞬間、川相コーチはボックスを飛び出して右腕を勢いよく回した。キャベッジはヘッドスライディングで本塁へ突入。ヤクルトの中継プレーの乱れもあり巨人は先制。試合の流れを呼び込んだ――。

 ヤクルトの左翼はドミンゴ・サンタナ外野手だったとはいえ、巨人も一塁走者は188センチ、92キロの大柄なキャベッジ。サンタナが右利きということを考えれば、左翼線の打球処理後の体勢を考えても一塁から一気に本塁突入はリスクは高かったのではないか。走者をためて、増田陸の次打者でバットコントロールに定評のある中山礼都外野手で勝負する手もあった。

「レフトがサンタナということもあって、そこら辺の動きをね、見た上でというか、考えた上で回しました」。川相コーチは静かに意図を語りだした。

戦況を見守る巨人・川相昌弘ディフェンスチーフコーチ【写真:イワモトアキト】戦況を見守る巨人・川相昌弘ディフェンスチーフコーチ【写真:イワモトアキト】

驚くべき視野と決断力

「キャベッジは走り出したらスピードはあるので。勢いよく来てくれたし、ボールへ追いつくまでサンタナも少し遅かったんですよ」。キャベッジといえば走攻守で全力プレーを信条とし、昨季も5盗塁をマークしていた。

 キャベッジの“特性”を理解。そして、腕を回した最大の理由は打球にあった。「レフトフェンスへのクッションが思ったより弱かったんですよ。“コーン!”と跳ね返るというよりは、当たった打球がポンポンという感じだった。そこで判断しました。状況によっては、あまり跳ねないこともあるんです」。

 クッションボールがしっかりと跳ね返っていればキャベッジを三塁で止めていたという。「GO」の指示を出すまでギリギリまで粘っていたのは、このためだった。本拠地をよく知るからこその“ファインプレー”だった。

 ヤクルトの先発は吉村貢司郎投手。「初回のピッチングを見ても、バンバンと点が入るような感じでもなかったし、思い切って狙えるところはっていう意図の走塁になったということですね」。冒頭のセリフを繰り返した。

キャベッジに続き本塁突入を狙った増田陸内野手はアウトに【写真:イワモトアキト】キャベッジに続き本塁突入を狙った増田陸内野手はアウトに【写真:イワモトアキト】

続くプレーでも本塁突入を選択した理由

 ちなみにキャベッジの生還後、続く中山も左前打で続き、川相コーチは二塁走者の増田陸にも本塁突入を狙わせたが、今度はサンタナからの好返球でアウトとなった。「あそこも狙いはあったのでね。たまたま、いい球が返ってきた。少しでもそれていたら2点目だったと思います。いい投手だし、チャンスがある時はいっておかないとね」。

 多くの伏線が絡みあって生まれた貴重な先制点。巨人は1点差で勝利を手にした。川相コーチといえば通算533犠打の“世界記録”を誇り「バントの神様」として主に巨人で活躍した。かつて、相手チームをじわりと苦しめていたいぶし銀は、61歳となった今も脅威の存在としてひっそりと貢献している。

(湯浅大 / Dai Yuasa)

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