DELTA・沖原大知氏、現状を分析し今後の展望に言及
日本が誇る若き大砲が、今季から挑戦しているMLBでも存在感を発揮している。ホワイトソックスの村上宗隆内野手は、早くも自慢のパワーを発揮。その一方で開幕からしばらくは打率が1割台に低迷するなど苦しむ場面も見られた。セイバーメトリクスの観点からプロ野球などの分析を行う株式会社DELTAのアナリスト・沖原大知氏が、村上の現状を分析し、今後の展望に言及した。(データは日本時間16日時点)
「いい意味でも悪い意味でも、凄く“らしさ”が表れています。K%(三振率)が高く、BB%(四球率)も高い。その中で打球価値も高くなっています」
17試合を消化した15日(日本時間16日)時点では、打率.179、5本塁打、9打点。沖原氏が注目したK%は31.1%で、50打席以上の選手221人中191位で下位13.6%。一方、BB%の23.0%は221人中2位で特筆すべき数字と言える。
三振と四球が多いのはヤクルト時代と同じである。レギュラーを獲得した入団2年目の2019年はセ・リーグ記録を更新する184三振。同年から6年連続で100三振以上を喫し、そのうち4度がリーグ最多だった。
三振率
K%
31.1%
下位 13.6%(191/221人中)
四球率
BB%
23.0%
上位 0.9%(2/221人中)
打球価値(純粋な結果)
wOBAcon
.444
上位 23.1%(51/221人中)
打球価値(より結果に近い期待値)
xwOBAcon
.500
上位 10.0%(22/221人中)
打球価値(より能力に近い期待値)
pwOBAcon
.510
上位 1.8%(4/221人中)
村上の各種指標(現地15日時点、50打席以上の選手を対象)
一方で3冠王を獲得した2022年に118四球を選ぶなど、リーグ最多四球も4度記録。沖原氏が「NPB時のスタイルとほぼ似ている」と説明したように、選球眼の良さなど打撃の傾向は変わっていない。ここまでは自分の打撃を貫いているのが見て取れる。
三振と四球以外の打球に関しても、MLBで上位10%に入るほどの内容を示している。打球価値の1つであるwOBAcon(純粋な結果)は221人中51位、xwOBAcon(より結果に近い期待値)は同22位、pwOBAcon(より能力に近い期待値)は同4位となっている。
バットスピードの平均はMLB上位23.1%「もうちょっと上昇する余地」
一般的にライナーは打球速度が弱くても高い打球価値を出すことができる。ただ、弱いライナーは再現性には乏しい。ここまでの村上はこういった弱いライナーに頼らずとも高い打球価値を残すことができているという。「能力として信頼できる部分で高い打球価値を稼げています。これは今後の再現性という点で、ポジティブかなというところです」と、後の明るい材料であると指摘した。
打球速度と密接に関係するバットスピードも優秀だ。シーズン序盤でほとんどの指標の信頼性は低いものの「バットスピードに関しては、ほとんど能力が数字と一致する。現時点でも十分に語れます」という。15日(同16日)時点での村上の平均は74.2マイル(119.4キロ)でMLB平均71.9マイル(115.7キロ)を大きく上回る。
「MLBでも速い部類に入ります。ただバットスピードはMLBでもトップクラスと想像していただけに思ったほどは傑出してはいない印象です。そこから考えると、NPBでの本塁打量産はバットスピードに頼ったかたちではなく、打球角度をつけるのがうまいという点で価値を生んでいたのかなと解釈できます。単に打球速度と角度が優れているというだけでなく、フライが上がったときにこそ打球速度を最大化できるというのが村上選手の特筆すべき点なのかもしれません。自身のパワーを最大限に生かしやすいパワーヒッターということです」
村上宗隆というスラッガーの“特徴”を分析する。「一方で、高い三振率も大幅に改善することはないでしょうから、そこを考慮するとまだ十分とは言えません。ただ、メジャーの投手への慣れなどを踏まえると、バットスピードはもうちょっと上昇する余地があると思います」。
上位23.1%に入るという村上のバットスピードをこのまま維持できた場合、カブス・鈴木誠也の2~4年目に近い成績が期待できそうだという。目安はwOBA .350(wRC+ 120~)となる。ただし、K%が高い打者であることを考慮すると、さらなる数字を求める場合は十分とは言えない。
現在の高すぎるBB%も長くは続かないはず。積極的に打ちにいかないスタイルである村上にしてはWaste%(明らかなボール球の確率)も11.1%と高く、今後は際どいコースへの投球が増えることも予想される。甘い球に対する打球価値を維持しつつ向上させ、際どいストライクが増える分の損失をまかないたいところである。
「強くスイングできている時ほど芯で捉えられている」
村上のバットスピードの分布を見ると、大きな山が2つある。自分のスイングができた時と、体勢を崩されたスイングの時、その両極端な2つの結果が多いのである。能力として持っているバットスピードは高いが、崩されてその能力を発揮できていないスイングも多いため、上位5%などの傑出した数字になっていないと言える。
さらに、まだ様子見の段階ではあるものの、村上は自身のスイングができた時とできていない時のSquared Up Rate(バットスピードと球速から期待される理想の打球速度に対する効率≒バットの芯近くで捉えたかを測る指標)が他選手と比較するとはっきりしている。強く振れていない時は、芯にも当たっていないのである。
また、MLBでの速球対応を課題に挙げられていた村上だが、現状は速球系に対してはバットスピードが速く、かつ芯近くで捉えているケースが多い。NPBでプレーしていた時と比べ、MLBでの対面球速の上昇をより意識している可能性にも言及した。
ちなみに、シーズン序盤の小さいサンプルサイズで二峰性の分布を示す打者は、シーズンが進むにつれ高い方の峰に寄りやすい傾向があるという。村上の分布で、右側の山は76~77マイル(約122.3~123.9キロ)。
これから強いスイングが相対的に増えてくる確率は他の打者より少し高く「もう少しバットスピードを上げられる余地があると考えて問題はない。そこまで大きな数字ではありませんが、傾向的には0.3マイルぐらい上がればいい。それぐらいの上昇の可能性は十分にある」と期待する。
「これから試合を重ねていく中で、高い方の山に分布を近づけていければ、高い打球価値を維持していくにあたって、かなりのアドバンテージになります」
打球速度と飛距離の関係性…1マイルで5フィートの差
今後は気候も後押ししそうだ。本拠地があるシカゴは寒暖差が激しい地域。15日(同16日)時点で平均17度だが、過去2年の平均は約22度。これから気温が上昇していく時期になると「打者として強く振れるシーズンになる」と説明する。
5度上がると0.16マイル(約0.3キロ)の上昇が見込まれる。「気温や、MLBの環境に慣れることで、バットスピードが上昇する余地はあります」。目指したい数値として、MLB上位10%となる平均75マイル(約120.7キロ)を挙げ、十分に「射程圏内」だと力を込めた。
バットスピードが上がれば、飛距離にも好影響を及ぼす。「村上は中堅方向への飛球が多い。中堅方向は右翼や左翼に比べて距離が長い。バットスピード、打球速度の1マイル(約1.6キロ)の差が、本塁打になるかならないかにシビアにかかわってきます」。バットスピード1マイル(≒打球速度1.2マイル)で5フィート(約1.52メートル)程度の差が出るため、中堅フェンス際の打球が本塁打になるかならないかの確率が大きく変わってきてしまうのだ。
「バットスピードがもう一歩上がれば、面白い数字が出るのではないでしょうか。シルバースラッガークラスの成績は十分に期待できます。wRC+で130~140(リーグ平均の1.3~1.4倍)ぐらいになれば、少なくともホワイトソックスの中ではトップクラスの打者になります」
鈴木誠也は昨年、打率.243ながら32本塁打、103打点をマーク。平均のバットスピードがもう少し上がれば、村上にも同等の数字が期待できて「現実的な目標になる」という。打率については「2割台前半、.230くらいなら可能性はある」と推測。本塁打や打点、出塁は現状でも稼げているだけに「村上の場合は打率.230でも、総合的には十分に価値を出せると思います」と評した。
「1年目はシュワーバーのような成績を目標にすればいい」。昨年56本塁打、132打点で2冠王を獲得したフィリーズの主砲は打率.240。2023年には1番に座って打率.197だったが、出塁率は.343と高く、47本塁打を放って話題にもなった。村上に求める数字も同様で「無理に球を追いかけると打球価値も出せなくなる。シュワーバーを目標ぐらいにやっていければ安定するかなと思います」
現時点ではNPB時代同様に、自分の選球アプローチができている場面が多いと見ている。「甘い球を見逃がしているかというと、そこまでではない。ボール球に手を出しているかというと、そうでもない。今ぐらいの比率を保っていければ、十分に打者としての価値を残せる」。
移籍1年目は自身のパワーを試合で発揮することが先決
今後さらに成績向上を目指すためには、やはりバットスピードの上昇が重要だという。具体的な数値としては今より0.9マイル(約1.4キロ)速い、75マイルを挙げた。
「もしこれ以上、試合の中で合わせるスイングが多くなって、バットスピードがちょっと下がると、思ったよりホームランが伸びなくなる可能性もある。自分の能力を試合で発揮できれば、本塁打数は今ぐらいのペースで十分に積み上げられるでしょう。バットスピードには注目していきたいです」
長期的な視野で考えると、K%を25~27%に下げられれば、さらなる成績の向上が見込める。K%やゴロ率の改善も先々は必要となるが、MLB移籍に伴う増加は避けられないのは事実。移籍1年目は自身のパワーを試合で発揮することが先決である。
「渡米前に、速球対応への不安を指摘されていましたけど、速球には結果が出ている。変化球にも結果を出せる能力自体はあります。ここまでは順調かなと思います」
MLBでも存在感を示している日本が誇るスラッガー。最終的にどのような成績を残すか、今から楽しみである。
⚪DELTA
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball 』も運営する。