貫く慶応愛「すごく幸せです」 名前に込められた“air”の意味…期待膨らむ2年生長距離砲のエース撃ち2ラン

高校野球春季神奈川大会の準決勝・立花学園戦で2ランを放って喜ぶ慶応の渡辺英亜(中央)【写真:大利実】高校野球春季神奈川大会の準決勝・立花学園戦で2ランを放って喜ぶ慶応の渡辺英亜(中央)【写真:大利実】

春季神奈川大会で慶応が3年ぶり4強…5月2日に関東大会出場をかけた横浜創学館戦

 4月4日に開幕した高校野球春季神奈川大会はベスト4が出揃い、横浜、桐光学園、慶応、横浜創学館が夏の第1シードを獲得した。5月2日に横浜スタジアムで準決勝(横浜-桐光学園、慶応-横浜創学館)が行われ、勝者2校が春季関東大会に出場する。

 慶応は2023年以来、3年ぶりのベスト4入りとなった。3年前は春の神奈川を制し、その勢いのままに夏の神奈川、甲子園で優勝を飾り、「KEIO日本一」を実現した。
 
 4月26日に行われた、立花学園-慶応の準々決勝。前年秋にベスト4に進んだ立花学園に対して、慶応は初戦で武相に1-3で敗戦。「立花に挑む慶応」という構図だった。

マウンドに集まる慶応ナイン【写真:大利実】マウンドに集まる慶応ナイン【写真:大利実】

 2回裏、慶応が立花学園の先発左腕・櫻井悠翔(2年)を攻めて、延末遵太(2年)のタイムリーで2点を先制。「延末」の名字に見覚えがある人もいるかもしれないが、3兄弟の末っ子で、長男・勧太は横浜から日本体育大、次男・藍太は慶応から慶大に進み、高校3年夏には勝負強いバッティングを武器に日本一に大きく貢献した。

 なおも、2死一塁。ここで、立花学園は140キロを超えるストレートを投げ込む本格派右腕・根本奨大(3年)にスイッチした。慶応は試合までの1週間、「根本くんを打つためだけに練習をしてきた」(森林貴彦監督)と、待ち望んでいたエースの登板だった。

 打席には、「1番・一塁」の渡辺英亜(2年)。183センチ85キロの体が一際目立つ長距離砲だ。相手にインパクトを与える狙いで、今春の大会から1番を任されている。

 根本のストレートに狙いを定めると、初球を見事に捉えて、「ガツン!」という衝撃音とともにレフトスタンドに消える2ランを放った。公式戦初ホームランだった。

 この一発で4-0。4回表に1点差まで詰め寄られるが、5回裏に2死走者なしからの4連打で3点を奪い取り、7-4で快勝した。

慶応の野球が大好きな幼稚舎出身の渡辺

 渡辺英亜。

「えいあ」と読みたくなるが、「えあ」と読む。

「“air”の意味が込められていて、空気と同じように『なくてはならない、みんなにとって必要な存在になってほしい』と、母親が付けてくれたみたいです。めっちゃ気に入っています!」

 中学時代は世田谷西シニアでプレーし、現在もチームメートの延末、矢口翔大(2年)らとともに、夏の日本選手権で優勝を遂げた実績を持つ。

 ピッチャーとしての潜在能力も高く、ストレートの最速は141キロを誇る。この日は、大村哲誠(3年)、湯本琢心(2年)のリレーで8回途中までつないだあと、リリーフで登板。ストレートとスライダーのコンビネーションで、試合を締めた。

 世田谷西シニアから慶応に進む選手は毎年いるが、渡辺の場合は「小学生のときから慶応の野球が大好きで、ずっと応援していました」と特別な想いがある。

 じつは、慶応幼稚舎(小学校)の出身。慶応普通部を経て、高校に進んだ。慶応歴は11年目だ。

 2023年夏、先輩たちが成し遂げた日本一は、甲子園のアルプス席で応援していた。

「初回に丸田(湊斗)さんが先頭打者ホームランを打ったとき、何か感動して涙が出てきました。小さい頃から応援していた慶応が、甲子園の決勝まで来たんだなって」

 憧れのユニホームに、今は自分が袖を通している。

「本当にすごく幸せです。慶応でプレーしたいとずっと思っていたので、その立場にいられるのが嬉しいです」

 目標はもちろん「KEIO日本一」。甲子園のグラウンドに立って、歓喜の瞬間を味わうことを夢見ている。

慶応の湯本琢心【写真:大利実】慶応の湯本琢心【写真:大利実】

「みんなでやってやろう!」というエネルギーを持つチーム

 試合後、森林監督は5回2死からの3点を評価していた。盗塁失敗でチャンスがつぶれかけたところで、矢口がヒットを放ち、すぐさま盗塁。その後、湯本、大棒琉雅(3年)、八百板直(3年)の連打で得点を重ねた。

「うちがなかなかできていなかった点の取り方ができました。3年ぶりぐらいに思い出しました」

「3年ぶりぐらい」とは、つまりは2023年以来ということだ。

 なぜ、つながりのある攻撃ができたのか。「どうですかね」としばし考えたあと、言葉をつないだ。

「今年のチームは、『みんなでやってやろう!』みたいなエネルギーを持っています。それを試合の中でうまく表現してくれているのかな。ベンチにいる選手がムードメーカーとして、いい空気を作ってくれているのも大きいと思います」

 指揮官が真っ先に名前を挙げたのが、背番号25の門祐晟(3年)だった。「練習でも試合でも、彼に頼るところが大きい」と表現する。

 長年チームを見ている赤松衡樹部長も、同じような見立てをしている。

「まず、キャプテンの徳留(海)がものすごく真面目。誰よりも練習をします。そこを評価されて、チーム内の投票でキャプテンに選ばれました」

 徳留は鹿児島出身。鹿児島育英館中時代にもキャプテンを務め、全日本少年春季軟式野球大会で日本一を達成。文武両道の慶応の校風に憧れて入学した。

「徳留は、3年前の大村(昊澄)のように周りに厳しく言うタイプではありません。そこをフォローしているのが、角のほかに、益井(英輔)や森川(慎太郎)。本当にいいキャラクターをしていて、レギュラー陣にも強く言うことができる。徳留の真面目さと、彼らのサポートがあることで、『みんなでやってやろう!』という空気が作れているのだと思います」

雰囲気がいい慶応ベンチ【写真:大利実】雰囲気がいい慶応ベンチ【写真:大利実】

冬場のウエートトレーニングで肉体強化

 昨秋は、前評判は高かったが力を発揮できずに初戦で敗れた。

「何かを変えなければ夏は勝てない」

 スタッフ、選手間で話し合い、冬は「フィジカル面の強化」をテーマに掲げた。鍛える部位を変えながら、週5~6日、ウエートトレーニングに時間を充てた。

「3年前よりも量は増えています。食事面の取り組みも含めて、体は大きくなったと思います」(森林監督)

 キャプテンの徳留は昨秋から体重が8キロアップ。ホームランを打った渡辺は3キロアップで、「打球は確実に変わりました」と手応えを見せる。

 勝ち進むことで、公式戦を経験できることも大きい。投手起用に関して、森林監督は試合前から大村、湯本、渡辺のリレーを予定していて、その通りに戦い抜いた。湯本はDHからマウンドに上がり、渡辺はファーストからリリーフ登板。湯本と渡辺には二刀流としての期待がかかる。

「湯本はDHのほうが、ブルペンで準備がしやすい。渡辺は後半から投げる予定だったので、5回が終わったあとの整備の時間を使ってピッチングをしていました。リリーフの適性や順番を含めて、春の間にこうして経験できるのはありがたいことです」

 世代によって変わるチームスローガンは『最幸喜恩』。最高の結果。人を幸せにする。他喜力。恩返し。それぞれの漢字に意味が込められている。

 練習前にも、試合前にも、「KEIO日本一!」と大きな声で口にするのが、徳留世代のルーティンになった。先輩たちが日本一を果たしたからこそ、道のりが険しいことはわかっている。一方で、非現実的な目標ではないこともわかっている。

 神奈川の勢力図を見れば、昨年から「横浜一強」が続き、2024年秋から県内では負けていない。どこが横浜を止めるのか。横浜を倒さなければ、甲子園は見えてこない。

 春の公式戦で経験値を高めることが、夏の戦いに必ずつながっていく。そのためにも、関東大会の出場権を全力で取りに行く。

(大利実 / Minoru Ohtoshi)

○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。

@mino8989

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