誤審晒され、ファンから批判…“Human Error”で酷な現実も ロボット審判が生んだ「目から鱗が落ちる体験」
打席中にABSチャレンジを行うドジャース・大谷翔平【写真:黒澤崇】今季から導入された新システム、チームや選手はまだ戦略性を確立できていない?
MLBでは今季からABS(Automated Ball-Strike System=自動ボール・ストライク判定システム)チャレンジが導入された。この新たなシステムは現地でどのように受け止められているのか。概ね好評のようだが、判定を間違えた審判員がファンから厳しい批判を浴びるという問題も浮上している。
ABSチャレンジのルールを改めておさらいしておこう。各チームが1試合につき持っているチャレンジ権は2回。成功する限りこの回数は維持される。延長に入ると、チャレンジ権が0回になっていても1イニングにつき1回のチャレンジ権が追加に。権利を行使する場合は、審判の判定後、ダグアウトやチームメートの助けを借りることなく、およそ2秒以内にチャレンジを行わなければならない。
ストライクゾーンの定義は、ホームプレートに2次元の長方形を使用。そのサイズは各選手の身長に基づいて決定されている。これは興味深い点であり、MLB審判員がホームプレートの前部や後部を通過することを考慮して判定する3次元のストライクゾーンとは異なるのである。また、野手が投球している場合はチャレンジは認められず、技術的な不具合が発生した際は元の判定が有効となり、チームはチャレンジ権を失わない。
各チームは、この新システムへの戦略を模索している。開幕直後、米メディア「ジョンボーイ・メディア」のクリス・ローズ氏は、トーク番組「ベースボール・トゥデイ・ウィズ・トレバー・プルーフ」の中で、チームや選手によるABSチャレンジの使い方に対し、戦略性がないと分析した。
「まず第一に、私はこのシステムが大好きだ。しかし、各チームにはいつチャレンジすべきか、あるいはすべきでないかという戦略がまだ全くないことが見て取れる。そして、選手たち自身もそれほど深く考えていない。ある試合において、9回表にアウェーチームがリードしている試合で打者が最後のチャレンジを使ってしまった。本来なら9回裏の投手のために取っておくべきだった」
これに司会者のトレバー・プルーフ氏(元ツインズ)も続いた。
「チャレンジは『スイング・カウント』で使うべきだ。例えば1-1カウントで、ボールがストライクと判定され、2-1ではなく1-2になってしまうような場面だ。打率に最も大きな差が出るのがそこだ。2-1のカウントと1-2のカウントでは、打席の結果を大きく変える可能性がある。また、より重要な局面のためにこの権利を温存しておく必要がある」
マウンド上でABSチャレンジをリクエストするドジャース・大谷翔平【写真:黒澤崇】また、プルーフ氏とローズ氏はチャレンジを行うのは捕手が最も適任であると指摘している。
「投球時には投手や打者の方が頭部の動きが多いため、ストライクとボールを判別するのが物理的に難しいからだ。さらに、捕手は投手や打者に比べて、審判の判定に対して感情的に巻き込まれる可能性も低い」
ABSチャレンジの導入初期段階では、このような「戦略的な要素が欠けていた」という声はあるものの、試合におけるABSの判定は正確に機能しており、評価は全体的に非常に好意的と言える。
ABSではストライクボールは3次元ではなく2次元で判定
その上で、プルーフ氏は、ベテラン審判CB・バックナーが球審を務めた3月28日(日本時間29日)のレッドソックス‐レッズ戦に言及した。この試合、バックナー球審へのチャレンジは6回行われたが、その全ての判定が覆った。これを受けて関係者は、このシステムが正義感をもたらしていると喜んだという。
米メディア「ジ・アスレチック」のケン・ローゼンタール記者も、この試合でレッズの三塁手エウヘニオ・スアレスが、バックナー球審による2つの連続した三振判定にチャレンジし、ともにチャレンジに成功した場面について触れた。
「満塁の場面であったため、判定が覆るたびに観客は完全に熱狂した。その日の試合で最も大きな歓声であり、選手がホームランを打った時よりも大きな声援だった」
Rソックス-レッズ戦で判定に異議を唱えられたCB・バックナー審判(右)【写真:アフロ】プルーフ氏は選手目線に立ち、こんな意見も述べている。
「実際に打席に立ってみると、判断がそれほど簡単ではないこともファンには知っておいてほしい。だから、当然ながら躊躇してしまうこともあるだろう。特に、チャレンジ権を失うリスクがあるからね」
ABSチャレンジの初期の成功と好評ぶりから、各チームは今後、チャレンジの使用を増やしていくことが予想される。さらに、大局的な視点から多くの専門家は、ストライクゾーンが数年以内に完全に自動化され、ボールやストライクを判定する人間の審判の必要性がなくなるだろうと推測している。
では、審判側の見方はどうか。前述したレッドソックス‐レッズ戦で、ABSチャレンジによって6回も自身の判定を覆されたバックナー審判員は、同週に一塁塁審としても明らかな誤審を犯した。この2つの出来事はネット上で話題となり、ファンから厳しい批判を浴びた。
選手と審判員の関係にも変化「彼が俺をアウトにしたのは、俺が嫌いだからじゃない!」
(笹田大介 / Daisuke Sasada)
