“危険スイング”に罰則は必要か… 相次ぐ事故にMVP捕手の持論「故意ではない」

4月16日のヤクルト-DeNA戦でオスナのバットが川上球審に直撃した
4月16日に神宮球場で行われたヤクルト-DeNA(神宮)で、アクシデントが起きてしまった。打者がスイングした後のバットが球審を直撃し、そのまま退場。現役時代に中日でMVPに輝くなど3球団で名捕手として活躍した野球評論家の中尾孝義氏は、NPB史上初めて捕手用のヘルメットを装着した事でも有名だ。危険と隣り合わせのバッターボックス近辺の“リアル”を訊ねた。
16日のヤクルト-DeNA戦の8回、ホセ・オスナ内野手がファウルした際、振り切ったバットが手からすっぽ抜けた。制御を失ったバットは川上拓斗球審の側頭部に当たり、球審は昏倒した。DeNAの山本祐大捕手や両チームのトレーナーが駆け寄ったが、そのまま担架で運ばれて退場。医療機関に搬送され、緊急手術を受けた。
中尾氏は自身の長い球歴を遡っても、今回のケースは稀だという。「僕は球審にバットが当たるなんて見た事がありません。バットは真後ろには、まず飛んでいかない。振った後のバットがキャッチャーに当たるのは、結構あるんだけどね」。
打者と捕手の距離感は、どんな風なのか。「スイングしている時は怖さは無い。振り切った後のバットが目の前を通る事があったりすると、『うわーっ』と間一髪で避けていました」と説明する。「フォロースルーが大きい選手がいるので、ミットを叩かれたりする。だから、バッターそれぞれのスイングの特色を掴んで頭に入れておく。下がったり座る場所を変えた。ベンチからも指示はありました」とリスク回避策を講じていた。
装具、ヘルメットで防御するしかない…「安全性を高めるのが一番」
中尾氏は滝川高校(兵庫)時代に怪我を負った。半世紀前の当時は捕手は帽子にマスクで、打者は木製バット。スイング後のバットが後頭部を直撃した。「知らぬ間に当たっていた感じでした」。出血しても、脱脂綿で拭いてそのままプレーを続けて試合後に病院で2針縫った。専大進学後、その話を聞いた小林昭仁監督が渡米時にツバなしの捕手用ヘルメットを入手し、中尾氏に贈った。着用した姿から“一休さん”と呼ばれた。
中尾氏は社会人のプリンスホテル、1981年のプロ入りと使用し続けた。「でも、日本ではなかなか浸透しなかったですね。打者の耳当てなしでツバがあるヘルメットを後ろに回してかぶるキャッチャーは出てきましたけど。アメリカじゃ、自分が大学生の頃にはもう作られていたのに」。安全性の確保に対する日米の時代の差を回想する。
キャッチャーと球審の位置は近い。「構えていて、背中にアンパイアの手が触れる事がよくありました。審判が危険を遠ざける方法としては、バッターから離れるしかない。だけど離れすぎると、ストライク、ボールを見極めるのが難しくなるのでね」。
先のアクシデントの後、18日に開催されたプロ野球6試合では6人の球審がヘルメットを着用して試合に臨んだ。「結局は装具、ヘルメットで防御するしかないと考えます。とにかく安全性を高めるのが一番」。当然の措置と受け止める。
オスナは4月25日の中日戦(バンテリンドーム)でも、スイング終わりのバットが石伊雄太捕手の頭部に当たるシーンがあった。防止策として罰則が必要との指摘もある。「うーん……。故意ではないので仕方ない、どうしようもない部分もありますからね。バッターは勿論、悪いとは思っているでしょうし。責任を取るとか、そういうのはどうなんだろう」。
NPBは4月30日、川上審判員が集中治療室から一般病棟に移ったと明らかにした。意識はまだ回復していないという。中尾氏は「アンパイアは本当に大変な職業。審判の方たちのお陰で試合が成り立っている。ただただ心配。早く良くなって欲しいです」と快復を祈る。
(西村大輔 / Taisuke Nishimura)