“ロボット審判”はNPBも導入すべき? 消える人間の尊厳…MVP捕手が力説「ない方がいい」

中日などで活躍の中尾孝義氏、「キャッチングがどうでもいいと思われる」
メジャーリーグは今季から、自動ボール・ストライク判定(ABS)チャレンジ制度を導入した。開幕から1か月以上が経ち、“ロボット審判”は確実に浸透している。それでも、1982年の中日優勝時にMVPに輝くなど3球団で名捕手として活躍した野球評論家・中尾孝義氏は「ない方がいいです。僕は賛成しない」と複雑な表情を浮かべる。キャッチャーのプライドが懸かる否定的な理由を訊ねた。
あらためてABSチャレンジとは何か。球審の判定に対し捕手、打者、投手だけが要求できるもので、判定後の約2秒以内に帽子やヘルメットを叩いて「チャレンジ」する。結果はすぐに球場のビジョンと放送の中で表示される。各チーム1試合2回まで権利があり、成功なら回数が減らず、失敗すると1回消費してしまう。
「アウト、セーフとかノーバウンド捕球かどうかなどで、今や日本でも通常になったビデオ判定は勿論いい。だけどストライク、ボールの領域までは踏み込まない方がいいと考えます」。その心は「キャッチングの技術がどうでもいいって思われてしまう」からだ。
中尾氏は際どいコースに来た投球をストライクに見せる「フレーミング」をはじめ、捕球技術の奥深さを説く。
「審判を騙す訳じゃありません。単純にただ捕っていたらボールになる球、それをストライクにするテクニックってあるんですよ。ミットの角度とか体の使い方とか。ものにするするには練習しかない。捕った時の音も大切です。ミットの芯に入らないと、ボソッとしか音がしない。審判も人間なので、少し外れていてもバチーンといい音がすれば思わず『ストライク』と言ってくれる可能性がある。投手の気分を良くする部分もあります」
チャレンジ要求は投手より捕手に任すべき、利点を挙げれば「先入観がない事」
中尾氏は、2回しかない「チャレンジ」を要求する場面の選択肢についても言及する。「早いイニングなのか、勝負所でなのか。タイミングが難しいですよね」。投手、打者、捕手だけが意思表示できるが、「バッテリーは同じチーム同士。キャッチャーに任せるべき」と断言する。「ゾーンが目の前なので一番分かっている。投手がストライクと思っても審判がボールとジャッジした時は大体ボール。ピッチャーは要求しない方がいい。自分の方が間違っていたと判定への不満は軽減されるかもしれないけれど」。
“ロボット審判”に物申す中尾氏に、あえて利点を挙げてもらった。「先入観が無いことかな。例えば僕が対戦した広島の北別府(学投手)。アンパイアが最初から彼はコントロールがいいイメージを持っていたと感じます。だから、ちょっとボールでも『ストライク』と言っちゃってました」と述懐する。
中日の先輩捕手が漏らした日本のレジェンドに関する思い出話も記憶する。「木俣(達彦)さんや新宅(洋志)さんが巨人の長嶋(茂雄)さん、王(貞治)さんが際どい球を見逃すと、ほとんど『ボール』になったと仰ってました。選球眼が抜群の印象が強かったのでしょう」。
中尾氏は“生身の審判”の胸中を慮る。「大変だと思いますよ。自分たちは不要なんじゃないか、とか。ABSチャレンジで判定の正確性を証明できる事もあれば、逆の場合もあるわけですから。それならば、いっそのこと、全球やればいいのでは」。
(西村大輔 / Taisuke Nishimura)