失った球速が5年で激変「どんどん上がった」 苦闘10年→掴んだ守護神…WBC韓国代表辞退に抱いた葛藤
3日のドジャース戦で今季9セーブ目を挙げたカージナルスのライリー・オブライエン【写真:黒澤崇】負傷でWBC辞退のオブライエン、カージナルスの守護神として大人気
今年3月に行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、メジャーリーグの選手がそれぞれのルーツを背負って戦う姿が新たな楽しみを生んだ。ただ所属チームの都合や故障で、代表入りを望んでもかなわない選手もいた。
カージナルスのライリー・オブライエン投手には母の出身地、韓国代表入りしないかという誘いが届いたが、直前のキャンプで右足のふくらはぎを痛め参加できなかった。代表の課題を埋めてくれるはずだった“秘密兵器”は今、セントルイスの守護神として飛躍のシーズンを送っている。代表への夢、遅咲きを果たすまで苦闘のプロ10年間を語ってくれた。一度は失った球速を、どうやって取り戻したのか。
カージナルスの本拠地、ブッシュスタジアムのロッカールームでオブライエンに声をかけた。WBCでプレーが見られなくて残念だった。それについて聞いてもいいですか――。
「いいですよ」と右手を差し出してくれたオブライエンには、「ジュンヨン」という韓国式のミドルネームがある。「意味は分からないけど、母方のおじいさんが生まれた時につけてくれたんだ。粋だよね。僕には韓国の名前もあるんだから」という言葉とともに、インタビューは始まった。WBCこそ出場辞退したが、今季はここまで16試合に投げ3勝1敗9セーブ。防御率2.20の好成績。本拠地のブッシュスタジアムでは、登場とともに歓声が上がる投手になった。
試合を締め、捕手のイバン・ヘレーラ(右)とタッチを交わすオブライエン【写真:黒澤崇】「今のコンディションは良いです。怪我はとても小さかったけど、スプリングトレーニングの時だったので……。WBCに行けなかったことは不運だった。楽しみにしていたんだけど、シーズンに向けて確実に準備ができているようにしなければならなかったんです」。今年は、メジャーでの地歩を固めるシーズンでもある。言葉にも葛藤がにじむ。
韓国はこの大会、2009年以来の1次ラウンド突破を目標に掲げ、見事かなえてみせた。東京ドームでの試合は、米国時間の深夜や早朝に行われる。オブライエンはリハビリや練習の合間を縫って、いくつかの試合を見たという。
大激戦だった。台湾に延長タイブレークの末敗れ、豪州との最終戦は失点率の争いに。奇跡のような確率で準々決勝行きを決めた韓国ナインは、グラウンドで帽子やグラブを放り投げて大喜びした。
「とても熱意をもってプレーしていたように見えたし、みんな楽しんでいた。誰もが勝つことを大切に思っていて、WBCが彼らにとって大きな意味を持っていると感じられた。プール戦を勝ちぬけたのを見られたのは粋だったね。自分も一緒にいられたら、と思うけれど……」。はじける歓喜のエネルギーは、オブライエンの目にもまぶしく映った。
5年間で球速10キロアップの裏側…一度は失ったスピードを取り戻す
ただ韓国は、米国マイアミに場所を移しての準々決勝でドミニカ共和国に0-10のコールド負け。敗退後、代表のリュ・ジヒョン監督は、今後の課題として国内投手の育成環境を口にした。若い投手が順調に伸びておらず、世界の球界で当たり前に進む“球速上昇”の波にも韓国は乗り切れていないとの分析だった。
オブライエンこそ、短期的にこの課題を消化するための秘密兵器だった。最速101.1マイル(約162.7キロ)の高速シンカーを武器とする右腕は今季、速球の平均球速が98.3マイル(約158.2キロ)に達し、メジャーでも上位4パーセントに入る希少価値。「確かに私は力強い球を投げるし、球速がある。チームの助けになれたと思うけど……。自分がどれだけ力強い球を投げるかということも、ほとんどの韓国投手とは少し違うということは分かっている、彼らはさほど力強い球は投げない傾向にあるからね」。自分の役割も心得ていた。
WBC1次ラウンドを突破して歓喜する韓国代表【写真:加治屋友輝】韓国代表との接触は、2025年の春季キャンプにさかのぼる。リュ・ジヒョン監督らの訪問を受け「君を見ている。シーズンでどうなるか見たい」と伝えられた。その前年はカージナルスの3Aメンフィスが主戦場。メジャーでは8試合に投げて防御率11.25という投手にすぎなかった。
シーズン中にも2度ほど、米国を訪れた指揮官と話す機会があった。家族にも、韓国代表になる可能性があると話していたという。そして期待に、数字がついてきた。開幕こそ3Aで迎えたもの、6月以降はメジャーに定着。42試合で3勝1敗6セーブ、防御率2.06。被打率.196に抑え込んだのだ。高速シンカーと、大きく変化するスイーパーとのコンビネーションで打者を翻弄。オフになり、正式に代表入りを要請されたのも当然だった。
ただオブライエンは、ずっとこんな剛速球投手だったわけではない。2021年の速球の平均球速は91.9マイル(147.9キロ)しかなかった。春先は試合に投げず、レッズの育成施設で過ごした。「腕の振りが高くて、球威がなかったのでそんなに力強い球を投げていなかった」。球団はオブライエンを育成リストに載せ、かつての感覚を取り戻させる時間を与えた。
「そうしたら、物事が好転し始めたんだ」
先に韓国代表入りしたトミー・エドマンが後押し「最高だった」
(羽鳥慶太 / Keita Hatori)
