星野仙一氏の“命令”で「車1台買えた」 中日元野手が圧倒された影響力…忘れぬ「5万円」

元中日の豊田氏、3年目オフに結婚式も「星野さんのお客さんばっかり」
元中日外野手の豊田誠佑氏(名古屋市中川区・居酒屋「おちょうしもん」経営)は、プロ3年目(1981年)に規定打席にこそ到達できなかったが、114試合に出場して打率.292と結果を残し、自信をつけた。オフには明大の先輩である中日・星野仙一投手に媒酌人を頼み、東京都内のホテルで結婚披露宴を行い、4年目の飛躍を誓った。目指すは中堅のレギュラー奪取だったが、鹿児島でまさかの“悪夢”が起きた。
プロ3年目のオフ、豊田氏は11月に高校時代から付き合っていた彼女と結婚式を挙げた。シーズン中盤から三塁を守ることが増え、巨人・江川卓投手から4号本塁打を放った最終戦(ナゴヤ球場)も「1番・三塁」でスタメン出場。内野守備に課題はあったが、打撃に手応えをつかみ「サードでも外野でもどこでも出られればいい」と4年目のレギュラー取りに気合を入れた。
媒酌人は中日エースで明大の先輩でもある星野投手夫妻にお願いした。「星野さんも初めての仲人だったんですけど、『いいよ』ってすぐにOKしてくれた。奥様もすごい理解がある方でね」。豊田氏夫妻はともに東京出身とあって、新宿の京王プラザホテルで披露宴をすることになった。「立食形式でやったんです。お年寄りだけは、疲れるだろうから周りに椅子を置いていましたけどね。600人くらい来ていただきました」。
とはいえ、来場者のほとんどを豊田氏は知らなかったという。「星野さんのお客さんばっかりだったんです。スポンサーの方とかね。僕らにお金がないからって、星野さんはお客さんみんなに『5万円ずつ持ってこい』って“命令”していたそうです(笑)」。星野氏といえば、のちに中日監督などを務めた際、スポーツ界、芸能界はもちろん、政財界に至るまで、幅広い人脈の持ち主として知られたが、選手の頃から“星野人脈”は形成されていたようだ。
「歌手の梓みちよさんや、小田和正さんも来ていただきました。僕は初めてお会いしたわけですが、梓みちよさんは(大ヒット曲の)『こんにちは赤ちゃん』を歌ってくれました。星野さんのおかげで(ご祝儀から)結婚式の式代などを払っても、車1台買えたんですよ」。大いに盛り上がった披露宴となった。同時に翌年に向けて、気持ちが高ぶったのは言うまでもない。
12月に中日が新外国人選手として三塁を守れるケン・モッカ内野手を獲得したため、豊田氏の目標は外野レギュラーに定まった。左翼は大島康徳外野手、右翼は田尾安志外野手で確定しており、ターゲットは中堅手。迎えた1982年、キャンプもきっちりクリアした。前年の実績もあり「センターでは頭一つ出ていたって感じだったかな。チャンスは十分あったと思う」と順調に突き進んでいた。だが、ポジションをつかみきれなかった。

3月のオープン戦で死球を受けて右手首を骨折
怪我にいい流れをすべて断ち切られた。「3月のオープン戦、(鹿児島の)鴨池(球場)でデッドボールを食らって、右手首を骨折したんです」。ロッテの速球派左腕・三宅宗源投手のストレートがもろに当たった。無念の離脱によって、レギュラー取りの夢は暗転。豊田氏が不在の間に、1歳年上の平野謙外野手が頭角を現した。「平野さんは(中日入団後に)投手から野手に転向してスイッチ(ヒッター)になったけど、左(打席)は全然だった。でも肩がよかったからね」。
バントなど小技もできて俊足、強肩の平野は、打撃にも磨きをかけた。「1番右翼・田尾、2番中堅・平野」を機能させ、そのまま開幕スタメンの座を勝ち取った。豊田氏は右手首が完治する前に無理をして復帰。開幕にも間に合わせたが、怪我をする前の自分に戻せなかった。4月4日の広島との開幕戦(広島)は、途中から中堅を守ったが3打数無安打。その後は代打や守備要員がメインになった。
悪いことは重なる。「無理して出たら、今度は肩をやってしまったんです」。送球の際に右手首をかばって投げていたのが、影響したという。それでも「痛いって言えないですから」と我慢してプレーを続けた。だが、そんな状態で結果を出すのは難しかった。「もう全然、打てなかったですからね」と豊田氏は悔しそうに振り返った。
4月20日の巨人戦(熊本藤崎台)では相手先発が左腕・新浦壽夫投手のため、田尾に代わって「1番・右翼」でシーズン初スタメンとなったが、4打数無安打。相性のいい江川が先発した4月22日の巨人戦(平和台)でも「1番・右翼」で出たが、この試合も4打数無安打に終わった。5月はスタメン起用が1試合もなかった。
この年、中日は優勝を成し遂げた。豊田氏も、右肩の痛みと闘いながら控え選手として貢献。できる範囲で力を振り絞ってプレーしたが、3月の鹿児島での死球は、悔やんでも悔やみ切れないものになった。
(山口真司 / Shinji Yamaguchi)