【独自】村上宗隆の“独り立ち”に必要なアプローチ 八木通訳が大切にする極意「仕事がなくなっても」

ベンチでチームメートと交流するホワイトソックス・村上宗隆【写真:アフロ】ベンチでチームメートと交流するホワイトソックス・村上宗隆【写真:アフロ】

開幕から2か月足らずで…同僚を唖然とさせる自然体を発揮

 出場45試合で17本塁打32打点。メジャー1年目とは思えない活躍で、大きな注目を浴びているのがホワイトソックスの村上宗隆内野手だ。大きな放物線を描いてスタンドに飛び込む豪快なホームランで、地元シカゴばかりか全米の野球ファンの心を鷲づかみにしている。その長打力と同じ、あるいはそれ以上に評価を高めているのが、類い稀なる「溶け込み力」だ。

 ここではあえて「コミュニケーション能力」ではなく、「溶け込み力」と呼びたい。開幕から2か月に満たないというのに、村上はすっかりチームの風景として溶け込んでいる。そもそも188センチ、97キロの堂々たる体躯を持ち、メジャー選手にも立ち会い負けはしない。選手が集まり、ウォーミングアップする様子を見ても、どこに村上がいるのか探すのが難しい。

 カブスとのシカゴ対決となった15日(日本時間16日)には、小型マイクをつけたまま試合に臨んだミゲル・バルガス内野手と村上の“親友ぶり”を、地元中継局が紹介。村上はベンチに腰掛けるバルガスの目の前に立ちはだかると、その両肩を掴んで強く揺さぶりながら「ん゙ーーヤーーーッ!」と気合を入れ、周囲からの「気合入ってるね!」「レッツゴー!」という合いの手に「イエーースッ!」「イエーースッ!」と叫びながら立ち去った。唖然と見送るバルガスが「あいつ、ワイルドだな」と思わず呟いてしまうほどの自然体が、そこにはある。

今永も驚く溶け込み力「本当に分からなくて」

 これは対戦相手から見ても同じようだ。ロイヤルズで解説を務める元MLB右腕のジェレミー・ガスリー氏も「こんなに早く馴染んだ日本人っていたのかな?」と驚きを隠せない。

「オリオールズではコウジ(上原浩治)、ロイヤルズではノリ(青木宣親)とチームメートとして過ごし、対戦相手としてダイスケ(松坂大輔)らを見てきたけれど、だいたい通訳やトレーナーと一緒にいるから『あ、あそこにいる』ってすぐに分かるんだ。日本語で話せる気軽さもあるから当然のことだとは思うけど、クラブハウスでも、通訳や日本人メディアと話していることが多く、少し切り離された空間のようになってしまうことが多い。でも、村上は通訳がいなくてもチームメートと楽しそうに笑っていたり、ちょっかいを出したり。もう何年も前からいるような感じがするくらい、自然に馴染んでいるのがすごいと思うよ」

 同じシカゴを拠点としながら、シカゴ対決初日にようやく対面を果たしたカブスの今永昇太投手も、村上の「溶け込み力」に感心する一人だ。試合前、打撃練習をしていた村上を見かけた時の印象をこう話す。

「第一印象、今思ったんですけど、僕そこ(右翼付近)から見ていて、村上選手がどこにいるか分からなかったんですよ。通訳のエドウィンに『あれって村上選手かな?』って聞いたくらい。本当に分からなくて、それくらい溶け込んでいました。それはあの体格とかバッティングフォームとかじゃなくて、醸し出すその雰囲気。通訳もそばにピタッとついていないですし、そこが1番、僕も見習わなきゃいけない点だなと思いましたね」

試合前に記念撮影をする鈴木誠也、村上宗隆、今永昇太(左から)【写真:佐藤直子】試合前に記念撮影をする鈴木誠也、村上宗隆、今永昇太(左から)【写真:佐藤直子】

八木通訳があえてとる“放任”スタイルのアプローチ

 今永が話した通り、確かに、村上の周りには常に通訳がついているわけではない。クラブハウスの中でも、グラウンドでも、通訳を介さずに自分からチームメートに声をかけ、コミュニケーションを図る姿が“当たり前”となっている。少し視野を広げてみると、村上から少し離れた場所、声を掛ければすぐ駆け寄れる場所に、通訳の八木賢造さんは位置取っている。八木さんは「普段はできるだけ、そばにいすぎないようにしています。村上選手がどんな人かを知ってもらうには、直接コミュニケーションを取ることだと思うんです」と“放任”スタイルについて説明した。

 八木さん自身、前職では言葉も分からないままドイツに4年間住んだ経験を持つ。環境に慣れるには「自分でコミュニケーションをとることが一番」であることは、身をもって経験済みだ。「村上選手自身、気さくに話しかけるタイプですし、そこは僕が入り込みすぎないように。もちろん、必要な時には駆けつけられるよう、誰かと話をしている時は視界に入れるようにしています」と放任スタイルの極意を語る。

村上宗隆(左)と通訳の八木賢造さん【写真:アフロ】村上宗隆(左)と通訳の八木賢造さん【写真:アフロ】

 ここまでの様子について聞くと「問題なくコミュニケーションが取れていると思います」と嬉しそうに話す。メジャーでは英語を母国語としない中南米の選手が数多くプレーしており、八木さんは「英語で話そうと努力する人の話は一生懸命聞こうとしてくれますし、ゆっくり話もしてくれる」と語る。「僕の仕事がなくなってしまいますが」と笑いながらも、「最終的には『もう通訳はいりません』という状況になるのが理想だと思っています」と、村上の“独り立ち”を全面サポートする構えだ。

 野球選手に限らず、新しい環境に飛び込めば、誰でも、本来持つ力を発揮するためには、まず環境になれることが大切だ。チームメートに軽くちょっかいを出してみたり、出されてみたり、本当は心の奥底に恥ずかしさや緊張感を押し込めているのかもしれない。ただ、そんなことは微塵も感じさせない「溶け込み力」が、村上の活躍を支える一因と言えそうだ。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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