勝利はビジネスの起爆剤 オリックスのブランド価値を高める仕掛け人…NPB初の試みも

オリックスナイン【写真:加治屋友輝】 
オリックスナイン【写真:加治屋友輝】 

小売業での経験をスポーツビジネスで生かす

 プロ野球をビジネスサイドで支える球団職員などに転職秘話を聞く連載企画。今回はオリックス野球クラブ株式会社をピックアップした。

 球場の熱気、スタンドを埋め尽くすファンの一体感。スポーツがもたらす「熱狂」は、球場に足を運ばせる動機となる。しかし、その輝かしい舞台の背景には、一般の企業と何ら変わらない緻密な経営戦略と、地道なビジネスの積み重ねが存在している。

オリックス野球クラブ株式会社事業推進部副部長(マーケティング担当)兼イベントグループ長の中島英太郎さんは、大学卒業後アパレル大手のユニクロ(株式会社ファーストリテイリング)に身を置いた。キャリアの転換点となったのは、駐在先のロンドンで出会ったフットボールの文化だった。スタジアムに併設された巨大なストア、シーズンシートの仕組み、放映権やマーチャンダイジング(MD)の緻密なライセンスビジネス。スポーツがこれほどまでに強固な「ビジネス」として成立している現実に感銘を受けたという。

 一般的に、アパレル企業はトレンドの分析や価格設定、適切な品揃えを生み出すサプライチェーン、そして世界中の店舗網とPR戦略といった「仕組み」によって需要を生み出し、消費を促す。「その一方でスポーツビジネスは、エンターテインメントという嗜好的な要素に、ライブ特有の“熱狂”が加味されることで、想定の範囲を超える思いがけない価値が生まれる面白さがあると思います」と中島さんは語る。

 小売業での経験をコンテンツビジネスで生かせないかという思いで、コンテンツのマネタイズをしている企業を軸に転職活動をした中島さん。浦和レッズと千葉ロッテマリーンズでMD、飲食事業を中心に主にBtoCマーケティング領域でキャリアを積み、2021年にオリックス・バファローズに転職をした。

関西で独自のポジショニングを確立するために

 中島さんの経験と知見は現在、オリックスにおける「球団ブランドの価値最大化」という極めて経営的なテーマに生かされている。

 従来、プロ野球球団は企業にとって広告宣伝やイメージ向上の手段、いわば「コストセンター」として扱われがちだった。しかし、スポーツの持つコンテンツ価値やIPとしての潜在力が再評価されるなかで、球団を「ブランド価値を生み出し、収益にも貢献する戦略的アセット」として再定義する必要性が高まっている。この取り組みの第1の目的は、収益構造の高度化、つまり放映権やグッズ、ライセンスビジネスの拡張、デジタル領域でのコンテンツ収益などによる収益源の多層化と単価向上にある。そしてオリックスにとって第2の目的が、“関西市場”という競争環境における独自のポジショニング確立だ。

「マス人気を闇雲に追うのではなく、若年層や女性、ファミリー層といった新しい観客層に対して『スタイリッシュでクリーン』『強くてスマート』といった価値を訴求し、心に刺さる観戦体験を提供して独自のポジションを築く。これこそが価値最大化の根幹であり、近年の3度のリーグ優勝や若いスター選手の台頭という『チームの強さ(競技面の成果)』と連動させることで、球団全体のブランド価値を一気に引き上げることが可能になると考えました」

 中島さんがもたらした変革の象徴が、2026年シーズンから導入されたユニホームの「共同制作」という新たな形態への移行だ。これまで球団は大手スポーツメーカーを中心にユニホームの供給を受けてきたが、その枠組みを大きく転換。ワールドグループのエムシーファッション社と提携し、メーカー主導の製品供給モデルから、球団自身が主体となってユニホームを設計・開発するモデルへとシフトした。

UNDER ARMOURやNEWERAとタッグ

 中島さんのアパレル業界の知見を生かしたファブレス型の供給体制により、デザインや表現の主導権を球団が握り、イベントユニフォームや限定モデルの柔軟な展開、さらには中間コストを抑え収益性の向上を実現している。

「ファンの方々がユニフォームを買いたいと思うのは、特定のスポーツメーカーの製品であることだけではなく、応援しているオリックスのユニホームだからこそ。それならオリジナルで作ることでデザインや世界観の主導権を球団が握り、グッズ開発の幅を広げ、その価値を最大限に引き出していくべきだと考えました」

 具体的には、「パフォーマンス」と「マーケティング」の中核としてUNDER ARMOURのチームウェアを採用し、日常生活での着用頻度が高くライフスタイル領域への拡張を担うアイコンとしてNEWERAと公式キャップ契約を締結。さらに、従来は目立たなかった足元を、新たな表現領域とパフォーマンス向上のギアとして位置付け、頓宮裕真捕手や渡部遼人外野手からの直々の要望もあり、STANCEのソックスを導入した。

 これらは中島さんいわく、「チームの競技力を直接的に高める要素であり、“勝つための投資”」。細部に至るまでデザイン性と機能性、統一感を持たせることで、「スポーツメーカーに委ねるモデル」から「球団自身がブランドとなるモデル」へ変化を遂げた。プロ野球球団で初めての試みだった。

「不確実性はスポーツの最大の強み」

 勝利の喜びは最も強力なコンテンツであり、ビジネスの起爆剤だ。しかし、チームの勝ち負けだけに依存しない強固な経営基盤を作るためには、徹底的な顧客体験の設計と、組織としての「知力」と「胆力」が欠かせない。現在、球団ではこのブランド経営をさらに一歩進めるため、組織強化策の一環として新たな人材を募っている。

「“熱狂”をはじめとする不確実性はスポーツの最大の強みですが、そこに偏重するとリスクが増します。だからこそ、観戦の楽しさをはじめ、利便性や快適性、ホスピタリティといったエンターテインメントコンテンツの強化が大切になります。観戦に行きたくなる、あるいは行かなければならないという源泉はブランディングやマーケティングで生み出すことが可能ですが、そのためには幾多の仮説のもとでトライ・アンド・エラーを繰り返す知力と胆力が必要です。ぜひ、この不確実性を楽しめる方にチャレンジしていただきたいですね」

 求める人材像は、単に「スポーツ業界だから」という枠にとらわれるものではない。一般の会社組織と同様に、マーケティングや宣伝の知識はもちろん、技術的なスキルを持ち、より経営のレイヤーに近い視点で物事を捉えられる、実務能力に長けた経験者だ。

「球団内各部門で研さんを積んだスペシャリストたちと連携しながら事業を推進できる方と一緒に仕事ができたら嬉しいです」。中島さんは力を込めた。

(「パ・リーグ インサイト」編集部)

(記事提供:パ・リーグ インサイト

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