銀行、求人メディアからNPB球団へ転職…楽天職員が語る「四方良し」の“仕事の手触り感”

株式会社楽天野球団・小野謙さんの「第二の故郷」でキャリアチェンジの理由
「ホーム全試合で冠協賛がついている」――。楽天の並外れた営業力を表すのにこれ以上の言葉はないだろう。今回はそんな精鋭集う楽天の営業チームの一翼を担う、株式会社楽天野球団・営業本部営業第1部の小野謙(ゆずる)さんに転職の経緯や、現在の業務についてうかがった。
小野さんは大学卒業後、銀行と大手求人メディアで働いた経歴を持つ。新卒で入行した銀行では法人営業として社会人の基礎を徹底的に叩き込まれ、転職後の求人メディアでは企業の採用支援に10年ほど従事した。
そんな小野さんが35歳のとき、大きな転機が訪れる。前職で1年間だけ赴任した仙台は、実は10歳まで過ごした、小田さんにとっての「第二の故郷」でもあった。2021年、23年ぶりに降り立った仙台の街には、幼少期には存在しなかったプロ野球球団、すなわち“東北楽天ゴールデンイーグルス”の文化が深く根を下ろしていた。
「自分が球団に入ることも全然予想していない頃でしたが、楽天イーグルスというものが仙台の街や人々の生活にすごく浸透しているというのを率直に感じたのを覚えています」
幼少期ぶりに住んだ仙台の街は、非常に暮らしやすかったという。東京に戻った後も後ろ髪を引かれる思いだった。
「中心地に商業やサービスが集中しているので生活がしやすいこと、そして人の温かさ。行きつけの店もできました。魅力を語ると数え切れないほど、仙台という街が大好きです」
当時、前職に不満があったわけではない。しかし、仙台という街の魅力に加え、組織のマネジメント側に回るにつれ、かつて現場で感じていた「仕事の価値の手触り感」が薄れつつあることも自覚していた。
「野球経験者ですし、いつか野球に関わってみたいという思いがありましたが、楽天野球団からのスカウトメールを見た瞬間に一瞬でワーッとなったのを覚えています。本当にそこからは『あ、受けたい、受けてみよう』と思って動きました」
NPBの球団という、日本に12個しか存在しない組織への好奇心。そして何より、何をするのか具体的に見えない「未知の領域」への挑戦が、小野さんの心を動かした。

ゼロから価値を創り出す、“四方良し”のスポンサー営業
楽天における小野さんの主業務は、法人を対象としたスポンサー営業である。現在、球団全体で330社以上の企業がスポンサーとして名を連ねるなか、小野さんは既存の担当企業を20〜25社ほど抱えながら、新規開拓の営業も並行して行う。
一般的にプロ野球のスポンサーといえば、スタジアム内の看板やユニホームへのロゴの掲出が思い浮かぶが、楽天のメニューは多岐にわたり、シーズンごとに増え続けている。その中でも小野さんが特にやりがいを見出しているのが、既成概念にとらわれない「ゼロベースのメニュー開発」だと話す。
これまでに小野さんは、スタジアムを活用した企業の「内定式」や、スポンサー企業と選手とのオリジナルコラボ企画など、これまでになかった独自のイベントを次々と実現させてきた。
「自分のアイデアや、スポンサーの方々とのやり取りから生まれたジャストアイデアを、部署を超えて全員で形にして、それが実現することでお客様に価値を返せる。これにすごく醍醐味を感じています」
特に印象深い仕事として小野さんが挙げたのが、スポンサー企業と選手のオリジナルコラボ企画である。社名やサービス名のPR効果だけでなく、「仙台の方々に自社を愛してもらいたい」という先方の抽象的ながらも熱い思い。小野さんいわく「『ロマンとそろばん』のロマンの方」を感じ、すぐに商品企画や他部署との調整に入った。
そうして生まれたのが、スポンサー企業と選手がコラボしたオリジナルカードのプレゼントや選手との対戦を疑似体験できるフォトスポット、そして選手のシーズンの活躍に応じて、宮城県内の幼稚園・保育園・児童養護施設などへ学用品を寄贈する社会貢献活動だった。オフシーズンにスタジアム近くの幼稚園での寄贈式に臨んだ小野さんはこう感じたという。
「お客様が望んでいたことを実現できたことも印象的でしたし、園児や先生方の笑顔が溢れ、選手もすごく喜んでくれていたという、参加する全員がハッピーになれたような案件でした。自分の仕事の価値の手触り感を、あれだけ直に、肌で感じられた仕事は本当になかったなと思います。“三方良し”というより“四方良し”くらいの仕事でしたね」
スタジアムやチームを起点に、関わる人々すべてにポジティブな循環を生み出すこと。それこそが、小野さんが日々実感している営業の妙味である。

求められるのは、未知の未来を描く「思考体力」
入社して丸2年が経過した今、小野さんはプロ野球というビジネスの構造を冷静に見つめている。多くの人を巻き込み、他部署との膨大な調整を重ねて一つの価値を生み出すプロセスは、実に地道なことである。
「一つの仕事に対して自身や一部部署で完結できることは、ほぼないんです。こんなに一つの仕事に多くの人が関わるんだ、というのは、入ってみて一番のギャップであり、同時に面白い部分でもあります」
これからともに働く仲間に対して、小野さんが求めるのは「思考体力」だという。
ビジネスにおける営業アプローチには、現在起きている問題を特定して解決する「問題解決型」と、まだ見ぬ理想やありたい姿から逆算する「目的逆算型」の2つがある。プロ野球のスポンサー営業において求められるのは、圧倒的に後者である。
「楽天イーグルスでの仕事は『会社をこうしていきたい』『こんなことができたら最高じゃないか』という、まだ実現したことのない未来、未知の状態を作る時に期待されることが多いんです。だからお互いのコミュニケーションもすごくポジティブになる。どうありたいか、どうなりたいかという、目的から逆算して考え続けることができる『思考体力』がある人は、すごく活躍できるのではないかと思います」
そして小野さんは茶目っ気たっぷりにこう付け加えた。
「スタジアムを走り回ったり、重い看板やのぼりを持ち運んで立てたり撤収したりするので、そういう意味での『体力』も必要だったりするんですけどね」
プロ野球という強烈な引力を持つコンテンツ。それを武器に顧客と共に新しい夢を描き、その瞬間をスタジアムで文字通り“肌で感じる”。この場所には、他では味わえない、確かな仕事の手触り感がある。
(「パ・リーグ インサイト」編集部)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)